イノベーションはビジネスの世界に咲く大輪の花のようなものです。人間は、花それ自体を創造することはできません。人ができるのは、花が健全に芽吹き、育成されるように適切な土壌、太陽、水、風通しを整備してあげることだけです。そして、これは企業におけるイノベーションについても同様です。まず組織とリーダーシップのあり様に目を向け、苗床となる土壌を整備してあげること。それができて初めて、イノベーションの種子は健全に芽吹くようになるのです。日本人の高い創造性が、なぜイノベーションにつながらないのか? イノベーションを生み出すための組織とリーダーシップのあり方を、組織開発が専門のヘイグループに所属する著者が、豊富な事例やデータをまじえながら、柔らかな文体で解き明かす。
イノベーションは「新参者」から生まれる
フィレンツェにおけるルネサンスの開花には、メディチ家が大きく貢献したと言われています。フィレンツェで銀行業を営んで大きな繁栄を築いたメディチ家は、その持てる富を絵画、彫刻、建築、文学、政治学などの幅広い分野に提供し、多くの才能ある人材をフィレンツェに集めました。あれほど小さな街です。おそらくレオナルド・ダ・ヴィンチとミケランジェロがフィレンツェの街角で邂逅するといったこともあったでしょうし、少なくとも彼ら自身が作り上げた作品を目にすることは何度となくあったはずです。彼らは、どう分野であれば切磋琢磨し、他分野であれば刺激を与え合うことで自らの思考や芸術を深め、世界史的な運動を牽引することになったのです。
フィレンツェのみならず、シリコンバレーなどでもこうした風土が醸成されているといえよう。投資家によるマネーを求めて世界中から才能ある人間が自分のアイディアを売り込もうと必死になってやってくる。イノベーションはそうした雑多な新参者が集まるコミュニティーでこそ芽が出てくるものだ。しかし、現在ではネットの爆発的普及により地方にいても上手いことやれば自分のアイディアを売り込む方法はいくらでもある。世界中どこからでも、新参者の新しいアイディアや作品は評価の対象となりうるのだ。
「イノベーション」の重要性を最初に指摘した人物の一人、経済学者のシュンペーターは著書『経済発展の理論』のなかでイノベーションを生み出す中心概念を「新結合」という言葉を使って説明している。アップルのスティーブ・ジョブズも「創造とは結びつけることだ」といっている。さらにオープンイノベーションの実践で先駆的な実績を上げているP&Gでは、「コネクト&ディベロップ」をスローガンとしている。人と人との繋がりを作るプロセスこそ独創性につながるということだ。
イノベーションの「目利き」
われわれは、有効性が証明されている明白なイノベーションであれば、有効性の低いイノベーションよりも早期に市場に普及するはずだと考えてしまいがちです。しかし、過去の歴史を見る限り、イノベーションがもたらす便益の大きさと普及の速さにはほとんど相関がありません。人類の歴史は、偉大なイノベーションが意外なほどに普及しなかった類のエピソードに溢れているのです。
これと逆のことが言えるのが、われわれが普段利用しているコンピュータのキーボード配列。「QWERTY」と呼ばれるフォーマットを採用しており、これはもともと「最も非効率的で打ちにくくなるよう」設計されています。この配列は最も効率的に文字を配列した場合と比べ2倍の時間がかかると言われています。そして作業には20倍の負担がかかるとも。しかし、そんな非効率的なキーボード配列は今でも現役でスタンダードであり続けている。不思議な話だ。
イノベーティブな組織の作り方
イノベーターと呼ばれる人々は何をニンジンにして自らをドライブしているのでしょうか?それは結局のところ「仕事の面白さ」ということになるようです。今回、アップル社をはじめとして、筆者のインタビューに回答をいただいたイノベーターの相当数は、粉骨砕身して仕事に没頭する理由について「仕事そのものが面白くて楽しいからだ」と答えています。彼らの多くは、達成そのものや世の中へのインパクト、社会的な意味といった「非経済的報酬」によってドライブされているわけで、つまりは「仕事そのもの」が報酬になっているとしか言いようがありません。以上の点を踏まえれば、イノベーティブな人材を集め、彼らを動機付けするためには、インセンティブやボーナスなどの報酬システムに工夫を重ねるよりも、挑戦的でやりがいのあるビジョンを与え、思いきりその実現を追求できる環境を与えてやることが重要だということになります。
仕事の面白さは報酬にも勝るということだろう。このような自由な環境を組織作りに取り入れれば、自然とイノベーティブな人材が集まってくるということなのか。小さな組織で売り上げが伸びず給料は低くても、自由にやらせてもらえれば、ビジョンを実現できる。報酬は多いに越したことはないが。
日本人はイノベーションに不向きという原説を吹き飛ばし、どうやったらイノベーティブな組織作りができるのかを説いた書籍。そうした人材が仕事場に何を求めるかにも言及。あなたの会社はこうした企業風土を持っているだろうか?
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