いま最も必要な発想の転換とは?私たちはみな「すでにあるもの」だけでもっと成果を上げ、もっと強い組織を築き、もっと仕事を楽しみ、もっと大きな幸福を手にできる―「ストレッチ」とは、これを実現するための考え方であり、技能であり、ワークスタイルである。
極限状態での創意工夫
人は必要に迫られてリソースフルになれば(つまり工夫を重ねてやりくりすれば)、信じられないようなことでもなし遂げられるという事実である。目指すゴールはさまざまでも、生きていれば誰でもたいてい、何らかの制約や制限に直面する。出したい成果と手元のリソースにもたいていギャップがある。金銭的な限界や、仕事の契約、情報、スキル、スタッフなどの制約‥‥。こんなとき、大半の人はそれを苦にする。だがストレッチャーはそんな制約などものともしない。代わりに「どうすれば手元のリソースでやるべきことをやれるだろう」と自問する。
このようにある制約下でそれを克服した人たちからは学べることが多い。制約ゆえ、創意工夫し、創造的に行動し結果問題解決に至ることも多々ある。ストレッチとはすなわち、手持ちの資源に可能性を見いだし、それをうまく活用、改善しながら問題解決に挑む決意である。あなたもストレッチャーになればどんな時でも恩恵を享受できるのだ。
不幸を呼ぶ「比較」
私たちの心は、リソースが増えればランニングマシンのスピードを上げるか、マシン上にとどまるためには、それ以上リソースが手に入らなくても速く走りつづけなければならない。比較の対象を「自分より持っている人」にすると、いつまでも失望しっぱなしである。銀メダリストは金メダルを見上げ、金メダリストは複数回受賞者を見上げる。百万長者は億万長者をうらやみ、カルフォルニア州ウッドサイドの住民は誰が「トップ」かを知るため、近隣の調査をやめない。緑の芝生にせよ、金色のメダルにせよ、人は上方社会的比較によって現状に不満を覚え、もっと上をめざしたくなる。
SNSの普及により私たちの周りには自分にはないものを持った人の情報が溢れるようになった。休みなく更新されるこれらの投稿により、高価な服やデバイスを買ったことなどをよく目にすることに。そこにはありふれた日常とは別世界の投稿だけする人の姿が目立つ。景気のいいビジネス(たいていはそう儲かっているわけでもない)の話や公開を前提に注意深く作成された情報が比較により、人々の気分を憂鬱にさせるという思わぬ影響をもたらすこともよくある。
独創的なアイディアは道具がなくても生成できる
学校を卒業したハンセンは、プロのアーティストになるという夢につながる仕事に就いた。最初の給料日、彼は前から欲しかった絵筆とバケツを買いに出かけた。間に合わせの道具をもっと洗練されたものに代えれば、作品はずっとよくなると確信していたからだ。ところが、新しい道具を買い込んで何日たっても、独創的なアイデアは浮かんでこなかった。そればかりか、彼のアートを躍動させるはずの道具は、むしろ震える手以上の足手まといになった。この状況を打開するため、ハンセンはどうしたか?まず道具へのこだわりを捨てた。そして、自分が本当は何を作りたいのかをじっくり考えた。「進んで制約を課すことで、もっとクリエイティブになれないだろうか‥‥」それ以降の彼は、新しい道具に頼らないばかりか、ほとんど道具を使わずに作品を作り始めた。
ハンセンの道具はスターバックスの紙コップ50個と1ドル相当の画材。最初のプロジェクトはダウディという少年の肖像画で高い評価を受けた。その後、インスタグラムではスタバのカップにマジックのみで作品を描くアーティストが多く出現したので、見たことがある人も多いだろう。即席の画材といった制約が、リソースを工夫する能力を開花させた好例で作品に新たな展望が生まれた瞬間だ。
不要な農産物から高級ジャムを
「有形か無計かを問わず、どんなものにもたいていリソースとしての可能性があるが、それが一定の価値を生むにはアクションが必要になる」とフェルドマンは述べた。だとすれば、リソースは我々の外側からやってくるのではない。私たち自身が創造し、形作るのである。ドーソンがいい例だ。彼女は不要な農産物を調達、調理、貯蔵するというアクションを通じて、価値の高いリソースを創造し、それを高級ジャムとして販売している。また、このアクションを起こすことで、もっと大きな構造を形づくっている。たとえば、不要な作物をどうするかという規範、食品廃棄物に対する姿勢などである。
日本ではその他の国の市場と違い、形の悪い農作物は出荷できなかったりするのが農家の悩みの種だったりする。それを一気に解決するのが、ドーソンのような取り組み。廃棄予定の農作物を安価で仕入れ、高級ジャムに生まれ変わらせてしまったのだ。今では当たり前のようなこのアイディアも誰もやっていなければブレイクスルーとなる。
柔軟な考えを生むのは様々な制約を受ける状態からということ。「人材」「資金」「ツール」不足などの制約を逆手にとって問題解決に取り組むストレッチ。少ないリソースからも結果は生み出せるのだとわかれば、世の中はもっと希望に満ちたものに。最初に道具ありきだった僕はちょっと反省させられた。
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