『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』白河桃子,是枝俊悟

年収600万円未満の夫は専業主婦の妻に『好きの搾取』をしている！？

2020年12月30日

「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです」「ゼクシィ」の2017年のCMを見て、結婚への時代の温度が、またひとつ次のステップに進んだのだと思いました。「結婚は当たり前じゃない」時代なのです。「婚活」という言葉ができてから10年、この流れの中で、結婚に対する温度の変化を見ていると、ひとつだけはっきりしていることがあります。未婚の人たちは今「良い結婚はしたい。でも悪い結婚はしたくない」のです。

主婦の給料19.4万円は高い？安い？

ドラマの冒頭（第1話）で登場したみくりの「主婦」としての給料水準の月19.4万円はとてもキャッチーで、ドラマの放映期間中、この金額をめぐってインターネット上では多くの投稿が行われていました。生活費を渡されその中でやりくりをしている専業主婦からみるとうらやましい金額だとする意見が多い一方で、仕事も家事も担っている「兼業主婦」からは仕事としてきっちり料理や掃除をするならば、むしろこの金額では安いという意見も見られました。一方、男性からは、とても月19.4万円など払えないという意見が多数を占める一方で、家事が完璧で文句も言わない、おまけにみくりを演じた新垣結衣のようなかわいい妻が手に入るならばーー本当に払えるかは別としてーー安いものだとする意見もみられました。

実際にみくりのような女性がいたとしたら、19.4万円払ってでも結婚したいという男性は多いだろう。しかし、年収600万円以下程度では「主婦」に19.4万円も払うのは難しいのが現実だ。年代別で見ると比較的高齢層（40〜50代）では安いとする人が多く、比較的若年層（20〜30代）では高いとする意見が多かったようだ。近年の日本では年齢が若いほど平均年収がより低くなる傾向もあり、正規の就職先に就きづらい若者世代ほど、相対的に「月19.4万円」が魅力的に写っていたようです。2016年4月に「マイナビウーマン」が25歳〜34歳の働く男女に行ったアンケートによると専業主婦（主夫）の年収は女性では約166万円（月約14万円）、男性では約143万円（月約12万円）という結果でした。男性より女性の方が高めに考える傾向があるとはいえ「逃げ恥」で使われた「月19.4万円」というのは主婦の給料としてはちょっと高めであるというのが視聴者のコンセンサスだったと言えるだろう。そこが、人々の関心を煽る結果となりネットでも様々な議論を呼ぶことに。

厚遇のはずのみくりが歯医者代を払えなかったワケ

みくりは平匡から月19.4万円を全額現金で受け取れるわけではありません。共同生活にかかるコストについては応分の負担をしなければいけないからです。（中略）「手取り」の金額は月9万1500円となります。額面の19.4万円と比べると半分以下に減っていますね。すでに家賃・光熱費・食費を引いた後ですので、この手取りの金額の月9万1500円はみくりの「こづかい」に相当する金額ともいえますが、みくりはこの中から残りの費用をやりくりする必要があります。被服代・美容代などもこの中から出しますが、みくりにとって重荷になったのは歯の治療代でした。ドラマ第4話で、保険適用の銀歯なら3000円だけれど、見栄えを考えると保険外で9万5000円かかるセラミックを希望していましたよね。

普通の夫婦であれば歯の治療代は生活費の中から捻出するのでしょうが、みくりは「契約結婚」家事労働と関係のない自分の歯の治療のための費用を平匡に請求するわけにはいきません。雇用契約関係にある以上、仕方のないことですがこれが現実です。

ルームシェアは結婚よりもお得だが‥‥

結婚すると一人当たりの生活費について「規模の経済」が働く面があります。ただし、「規模の経済」を得たいのであれば、結婚せずとも単に一緒に暮らすだけ、同居・同棲でも同様のメリットが得られます。もっというと、二人暮らしよりも三人暮らし、三人暮らしより四人暮らしの方がより「規模の経済」が働くわけですから、経済的には結婚より多人数でのルームシェアの方がもっとお得になります。とはいえ、友達同士仲良く暮らしているうちはルームシェアでよいのかもしれませんが、その中で恋愛関係が出てくると多人数で一緒に暮らすのは難しくなってくるかもしれません。

「逃げ恥」では風見とみくりは同居こそしていませんが、「シェア婚」と称して風見の家にみくりが家事代行しに行くことに、平匡は嫉妬心を募らせることに。男女なので友情などない場合も多く、僕が遭遇したシェアハウス（というか地元のヤンキーたちが大きめの一軒家に溜まって過ごしている）の例だと、人が寝ているすぐ隣で、男女がセックスを始めるなんてちょっと考えられない状態に陥ることも。

平匡とみくりの間柄も契約結婚から普通のカップルに移行するさえに共働きシミュレーションに変更したりします。二人の間に子供が生まれたりしたらさらに変更が必要になるでしょう。専業主婦の最大のリスクとして離婚なども挙げられていて、結婚の形態の多様化を経済学で読み解く面白い書籍となっています。