私たちの社会の中の少なからぬ人々が、男女のあり方にまつわる様々な事象により「生きづらさ」を抱えている。そうした生きづらさの解消に向けた社会のあり方を構築しようとすると、異なる見解を持った人々が同じ土俵に立ち、共通のルールで議論をする必要がある。著者のジェンダー問題に関するポリティカルなスタンスは、女性に対する男性優位や固定的な男女の役割を当然とするような社会のあり方には反対する立場。いわゆる「ジェンダー・リベラル派」だ。男女のあり方を多角的な視点から捉える事を重視し、全体像を理解できるように解説された書籍だ。
日本における男子論争
若い男性たちを問題化する事が最近多いが、そのほとんどが、男性が「一人前の男」になれなくなってきた事に起因するという点で共通している。「一人前の男」とは家族を養える、すなわち十分な経済力をもち、女性と結婚し、家族の長として責任を果たせる男性の事だ。そこそこの企業に正社員として雇われていれば「一人前の男」になる事も可能だが、そこからこぼれ落ち、非正規やフリーター、ニートと言った人間にはどうも息苦しいのが現状だ。こういった言葉(フリーター、ニートなど)はどうも男性に向けて使われる事が多い。それが「生きづらさ」に繋がっているように僕は感じるが、実際にはフリーターの割合は女性の方が圧倒的に多いといったデータもある。こうした事に加え、男性内の所得格差の増大と、収入の低い男性を恋愛や結婚の対象と見ないという女性側の風潮にもミスマッチを生む原因がある。女性が進出してきたというより、男性同士で高収入の仕事というパイを奪い合い、それに敗れた男性が勝者の支配下に入るという構図が出来上がっている感がある。
男性への役割期待の増大
もう一つの男性たちの「生きづらさ」の原因は男性に対して期待する役割が従来の仕事だけでなく家事・育児にまで広がっている事。「男は仕事と家事・育児、女性は家事と趣味(的仕事)」といった「新・専業主婦志向」。「父親は職業と子育てを両立、母親は育児優先」といった「幸福な家庭志向」など従来の役割に留まったまま、男性には従来の役割に加え従来女性が担ってきた役割も求める。そんな期待が女性たちの間である程度高まってきている。これにはメディアの影響もあるだろう。もっとも賞賛をされる男性はビジネスエリート、政治家、プロスポーツ選手等。私生活を仕事に従属させるような働き方で過酷な競争を勝ち抜き、妻子を養うのに十分すぎる経済力がある。家事や育児をする暇も必要もない。
ジェンダー保守主義の視点
- 昔から男は仕事、女は家事育児を中心に行ったほうが世の中うまくいくものです。よって男女平等はありそうで絶対にありえない事だと考えております。(女性、50代前半)
- 女性にできること、男性にできることはそれぞれ違うと思うので、男女平等にするというのはできないと思う。お互いができないところを補っていけば良いと思う。学校での名簿などを男女混合にすることなどまで気を遣うのはおかしいと思う。(女性、30代後半)
ジェンダー平等主義の視点
- 男性は「誰のおかげで生活できているんだ」とか言ってますが、女性の側から言えば「誰のおかげで仕事、子供の教育などを安心してできるんだ」と言いたいですね。…今まで生きてきて、なぜ「男」が威張るのかわかりません。…男女平等ということを学校教育で学習するといいと思います。(女性、65歳以上)
ジェンダー自由主義の視点
- 20年ほど前までは、男は働き、女は家事育児が当然とされて、今は男女共に働き、家事育児をするのが当然となりつつあります。それがとても嫌です。…男女とも色々な選択肢があると教育して!(女性、30代後半)
三つの視点からの声を紹介したが、僕は男女共に自由な選択ができ、ジェンダーによって後ろ指さされることのない社会が理想だと思う。しかし、根強い保守派の残るこの国ではまだ時間がかかりそうだ。
後半では男女平等教育、共学か別学かの議論や「ジェンダーと教育」研究における男子の<可視化><不可視化>などについて語られている。男子問題に関する書籍はまだまだ少ない(若者論的な書籍は多数出版されているのに)ので興味がある方はどうぞ。
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