先進諸国が加盟するOECDの各種統計を読み解いていくと、日本は非常に「残念な国」である事実が浮かび上がってくる。労働生産性、睡眠時間、女性活躍推進、起業家精神など、様々な分野で日本は最低レベル。しかし逆に考えれば、人的資源、社会インフラ、技術革新、財政基盤など基本的条件がここまで揃っている国は存在しない。世界トップレベルを誇る様々な日本の強みを効率的に活用するための社会システムを構築していこことで、負の遺産とも言える人口減少までもが、実は日本の武器になる。まだまだ伸びしろがあるとも言える日本のこれからを統計を交え論じた書籍。
必要とされるのは定型化出来ない仕事
現在ある職種の中で50%以上が自動化(AI技術やICT-AI技術)により内容が大きく変わる仕事はほとんどの国で、10%未満。一方、2020年までに仕事の内容が大幅に変化する職種の割合は、どの国も高く、日本も22.4%とという統計がある。2045年にはシンギュラリティによりAIと人間の関係が大きく変わるなどという学者もいるが、とりあえず、東京オリンピックまでは大丈夫といったところか。
求められるスキルは非定型の対人的業務と非定型の分析的業務で、2016年現在でも、1970年代から下降の一途をたどり定型的業務と非定型的手仕事業務は需要が減少している。就業者の仕事の習熟度別に見てみると、中程度の能力を持つ補助的事務作業などに従事する人が、人件費の削減や効率化により消滅しつつあるのがわかる。
日本人のスキルはトップレベルだがそれを生かしきれていない
日本には、テクノロジーとの協業を可能にする、恵まれた環境があります。それは、社会経済生活に必要なスキルを非常に高度なレベルですでに身につけている人材です。OECDが実施している、PIAACという調査があります。16歳から65歳の男女を対象にした成人技能調査ですが、日本人は読解力と数的思考力のテストにおいて世界1位という素晴らしい結果を出している。
一方、PIAACの調査項目である「問題解決能力」「ITの利用」「数的思考力」「読み書き(読解力)」を実際に仕事で使っている頻度を比較したデータによると、日本人は、読み書き以外のスキル(ITを使ったり問題を解決したりする能力)を仕事場で使う頻度が他国と比べてかなり低いことがわかる。一方、アメリカを見てみるとすべての能力を高い頻度で活用しています。まさに宝の持ち腐れ。これは、一度ドロップアウトしてしまうと、なかなかセカンドチャンスに恵まれない日本の雇用体系(未だに新卒の割合が多く、年功序列があり中途採用に積極的でない)にもよるものだと思う。埋もれた人材(高齢者なども含む)を社会の中に組み込めれば日本はもっと成長できるのかも。
女性は日本社会の〝Best Kept Secret〟
クレディ・スイス銀行では、女性取締役がいる企業の方が業績が良くなるなど、経営にプラスの効果が出るといった調査結果を出している。男性と異なる視点で経営戦略に活かせるからだ。日本でもこういった試みは始まっているが、他の国と比べると出遅れている。中小企業などフットワークの軽い企業ではこうした女性の経営陣による成功も多々ある。専業主婦として5人の子供を育て48歳でドラッグストアを企業した著者の母親は、その後、20年で年商200億程度まで伸び山陰地方でトップの小売店となった。主に女性客が利用するドラッグストアに女性目線の経営を持ち込んだ好例だ。
何も女性だけがイノベーションを起こすわけではなく、様々なバックボーンを持った人間を雇い入れ、化学反応を起こしやすい環境を作ることが大切だ。近年、日本でも「ソーシャル・インクルージョン(social inclusion)」や「インクルーシブ・ソサエティ(inclusive society)」といった言葉を聞くようになった。「社会的包括力」「包摂的社会」などと訳される。一般の人と同等に働くことが難しい人でも、少しの助けがあれば社会の一員として持てる力を発揮できる人たちがいる。一億総活躍社会、実現して欲しいものだ。
グローバル企業の一人勝ち
特にサービス部門はグローバルに事業展開している企業とそうでない企業の生産性の格差が顕著です。(中略)
イノベーションの種は数多く芽生えますが、それを育て、生産性向上というか実にすることができる企業が極めて少数であるため、〝The Winner takes it all〟(勝者が全てを奪う)という現象が起こっていると考えられます。
確かに数々のベンチャーが芽吹き、そのビジネスをそのまま買い取る事例は多く、ベンチャーの創業者も自分の企業を大きく育てる気概にかけ、ある程度まとまった金額を提示されればすぐに売り払ってしまう。
iPhoneの成功
電話、音楽プレイヤー、カメラ、インターネットなど一つ一つはすでに既存の技術だったが、それらの技術を一つのプロダクトに統合し、こだわり抜いたデザインに仕上げ、徹底したブランド戦略を立てマーケティングに力を注ぐことで時代を変える程のイノベーションを起こした。
日本において、格差社会を阻止するために最も重要なのは、セカンドチャンスが可能な環境だ。日本ほどセカンドチャンスをつかむための人的資源に恵まれた国はない。あとは、それを促進する社会システムを工夫するだけだ。非正規と正規労働者、女性と男性、若年と高齢者、これらの格差を一刻も早く取り除くことが求められる。
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