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異なるモラルをもつ人々と〝仲間内〟を超えて社会を築く方法とは

群れで生きるための心の働きを、進化的に獲得してきたヒト。しかし、異なるモラルをもつ人々を含む大集団で生きる現代、仲間という境界線を越えて、人類が平和で安定した社会をつくるにはどうすればよいのか。心理学などの様々な実験をもとに、文系・理系の枠を飛び越え、人の社会を支える心のしくみを探る。

群れ生活と脳の進化

自然環境への適応はヒトに取っても決定的に重要です。しかし、生物種としてのヒトにとっての最大の環境適応とは、おそらく群れ生活そのものにあると考えられます。自然環境に適応するための手段として群れを選んだ結果、今度は群れの中でどう生き残るかについての新しい適応問題が生じてきたわけです。生物学の教科書を見ればすぐにわかるように、群れを作り群れの中で生きるやり方は、生物にとってただ一つの生き方ではありません。つまり、ヒトの遠い祖先は、進化的な意味で、群れることを「選んだ」ことになります。

群れることを選んだ種の中で、脳の大脳新皮質の大きさを比べてみると、群れの大きさが大きいほど大脳新皮質が大きくなるという結果が出ている。僕のように〝ぼっち〟で群れることを選べなかった人間が孤独感に苛まれ、時に大勢でいる人を見ると羨ましく思ったりするのも進化の過程で大きくなった大脳新皮質が影響しているのかも。いずれにせよ、社会集団の増大に伴い、情報処理量(認知、判断、言語、思考、計画など)が上がったのは間違いない。

ホッブズの考える自然状態

ホッブズは、人間集団の自然な状態を「闘争状態」だと考えました。自然界に存在する資源が有限である以上、自己保存のために各人が勝手に振る舞うことにより、秩序のない競争が生まれてしまう(自然権の自由な行使による万人に対する闘争状態)。そうした無秩序な混乱や戦争状態を避け、平和で安定した社会を実現するためには、「強力な中央集権の仕組み」が必要になる。とホッブズは考えたのです。

どのようにして、平和な暮らしを構築するのか?という問題の答えとして、人々が勝手に振る舞うことを辞め、強力な中央集権の仕組みを進んで受け入れることが人々にとって最も合理的な選択だという。

チスイコウモリの持ちつ持たれつの関係

南米大陸に、家畜の血を吸って生きるチスイコウモリという小動物が生息しています。チスイコウモリは、昼間は洞窟などで眠り夜になると活動する夜行性の生き物ですが、社会性がよく発達しており、一〇〇個体くらいの群れ(血縁関係のない複数のメスたちを中心とする群れ)を作って生活します。興味深いことに、チスイコウモリの主にメスたちの間で、不運にも獲物にありつけなかった仲間のために、血を吐き戻して分け与える分配行動が一九八〇年代に発見されています。チスイコウモリは代謝が早く、二日続けて血が吸えないと餓死してしまうことが知られています。吸った血を不運な仲間のために分け与える行動パターンは、人間社会における社会保険や互助組合のような役割を果たすことになります。

このような行為はただ信義に厚いというだけではなく、自分が飢えた時のためのリスクヘッジとも言える。実際、以前に血を分け与えてくれた回数が多い個体ほど自分が飢えた時、血を分け与えてもらえるというデータもある。これは血縁関係よりも強い結びつきとなる。

いかに分配するか?

災害で非常に多くの負傷者が出た場合、医療資源を後のように分配すべきでしょうか。資源が無限にあるなら、負傷者全員に満遍なく医療行為を施すべきことはもちろんです。しかし現実には切迫した時間の中で、有限の医療資源の分配を行わねばなりません。このような場面でトリアージ(triage)と呼ばれる考え方があります。治療を必要とする患者を緊急度に応じて選別し、病院への搬送や治療を行う優先順位を決めるという発想です。緊急度の高い患者には赤色のタグ、それほど緊急性はないが早めの治療が必要な患者には黄色のタグ、軽傷の患者には緑色のタグ、すでに死亡しているか治療不可能な患者には黒色のタグを付け、赤から優先的に搬送・治療を行うことになります。

医療モノのテレビドラマなどでも見かける光景だ。話はそれるが、最近面白いニュースを見た。 一人暮らしの人で病気により救急搬送される際、本人の意思で自然な形で病気の進行を見守ってほしいという要望を示しておけば、そのまま手術やなんかを行わずに経過を見守り、安らかに眠らせてくれるというもの。僕はこれに賛成だ。手術や医療行為を行ったとしても意に反して半身不随になったりしたら目も当てられないし、家族に負担もかかる。ならば自然な形でというわけだ。病院のベット数は限られているし、こういった意思表示をしておけば、どうしても生き延びたいと願う人に医療が分配されると考えれば社会貢献にもなると思う。

他にも「格差を嫌うヒトの脳」という項目では、なぜヒトの不幸が蜜の味でそれが自分との格差がある人間だと余計に「快」(報酬)を感じるのかが論じられていた。大衆がゴシップ好きな理由がそこにある。普段生活していく上であまり意識したことがないモラルや正義について、考えさせられる書籍でした。

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