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『空飛ぶ納豆菌 黄砂に乗る微生物たち』岩坂 泰信

      2019/05/02

中国奥地から飛来してくる黄砂が、大気汚染の原因となる化学物質をもたらすと言われてきたが、カビや細菌も運んでくることがわかってきた。数千キロメートル彼方から偏西風で運ばれる黄砂は、水分とミネラルを含み、長距離を移動する微生物にとっては、格好の乗り物だったのである。敦煌の上空と日本の上空、3000メートルを越える北アルプスの山々で、黄砂と一緒に運ばれる微生物たちの研究が、いま始まった。

オゾンホールの謎解き

南極上空でオゾンホールが見つかり、その原因が人間の放出するフロンガスだということで大騒ぎになってきた。地球科学で高い評価を得ている「Geophysical Research Letter」(GRLと略して呼ばれる)という雑誌がある。この雑誌が、アメリカの南極オゾンホールの集中観測が終わったタイミングを見計らって、世界の関係研究者に向けてオゾンホールに関する論文を投稿するように呼びかけた(一九八七年)。このあたりは、さすがアメリカは世界をリードしていると思わせられた。私は、南極から帰国して越冬中に観測した記録を解析中であり、高額な装置を使った観測であったことからも、なんとかしっかりした国際誌に結果を発表したいと思っていた。折しも、友人の石広玉さん(中国科学院大気物理研究所教授)はアメリカに渡って勉強中であり、アメリカの様子を知らせてくれた。アメリカは文字通り「オゾンホールフィーバー」にかかっており、多額の研究費が原因の究明や対策に向けられているとのことであった。そんなわけで、彼もまたその大きな流れから逃れることはできず、ひと旗あげるには、オゾンホールに関連する論文で勝負しなければならなかったのである。「南極成層圏でオゾン濃度が激減しているらしい!」と聞いて、「それではオゾン濃度を詳しく精密に測れば、そのわけがわかるだろう」と考える人が多いだろうが、そうではない。自然はそんなに単純ではない。

フロンガスというとちょっと懐かしい響きだ。オゾン層の破壊につながると、一時期その存在が問題となったが、最近はあまり聞かなくなった。フロンガスだけがオゾンホールの原因ではないということだろうか。

敦煌での黄砂観測へ

生き物がその生命活動を続けてゆくには、常に何かを体に取り込み、常に使用済みの物質を体外に出している。体内に取り込まれる物質のうちほとんどのものが土(より正確にいえば鉱物であろう)に起因している。われわれ人間を考えてみれば、それはあまりにも明らかであろう。野菜や果物はもちろんそうであるが、口にする魚介類はいうに及ばず、ステーキだってカツレツだって、もとはと言えば海中の植物(プランクトン)や山林に生い茂っている(ということは、土から養分をもらっている)草木を食べている動物なのである。黄砂の上に乗っている(と想像している)微生物だってそこは動かせないところじゃないのだろうか。このころ私は技術的に少し面倒な課題を抱えていた。「気球によって高高度のエアロゾルや黄砂を直接つかまえる」技術の開発である。しかも、前にも書いたように「静的なエアロゾルや黄砂の姿ではなく、空気中に浮かんで様々な働きをしているダイナミックな姿」がわかるような採集をする技術なのである。このあたりの技術は、今後必ず必要になってくると考えられた。新しい観測拠点を探すために、中国を何回か旅行をしたが、旅行中ひまを見つけては気球を使ってエアロゾルを直接採集する装置に関する基本デザインを考えていた。

気球を使ってエアロゾルや黄砂を採集。空気中を単に漂っている姿ではなく、漂いながら反応し、反応したものを撒き散らしている姿であり、漂いながらその表面には微生物活動さえ見られる姿である。常在菌という言葉で括られている一群の細菌があり、空で見つかっても不思議ではないという理解。地球上どこでも空飛ぶ細菌は跋扈しているのだ。

空飛ぶ微生物たち

私の研究グループがもっぱら対象にしているのは、細菌と呼んでいるものが中心になっている。研究対象を細菌に置いたのにはいくつか理由があるが、何といっても比較的よく観察されてきた対象であったということである。「それじゃ話が面白くないじゃないの」「これまで研究されてこなかったものこそ面白いんじゃないの」などとおっしゃる向きがあろう。しかし、そうではないのである。これまでしばしば研究対象になっている菌であっても、それらが大気圏でどのように行動しているかについては、皆目わかっていない。そして前にもふれたように何をしてるのかわからない連中が圧倒的に多いのである。だから、このあたりに研究の妙味があろうということになるのである。ここでいうよく観察されてきたという意味は、「 ○○ 細菌は病原性の菌であり、咳などで人から人へ伝染するので、外から帰ったときには手洗いやうがいを徹底する必要がある」などの知見が得られていることを指すことが多い。それに続く研究は、どのようにしてこの菌に冒されないようにするかとか、この菌によって病気にかかったときにはどのような治療が最もよいかということなどを探ることに重点があった。

最近では空飛ぶ微生物をを過剰に嫌う向きがある。空間除菌という言葉からもその嫌われっぷりがわかる。僕の小さい頃はそこまで除菌をして過ごした記憶はないが、病原菌に起こされたことなどはほとんどない。過剰な除菌が、抵抗力を失わせているのかもしれない。

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