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人生の機微を読む、庶民による珠玉の「名言」

      2017/12/10

民俗学者たちの心に深く刻まれた、庶民による珠玉の「名言」。後世に評価される仕事を成し遂げ、あるいは人々の心に響く言葉を遺すのが、偉人の偉人たるゆえん。おかげで名言集の類は事欠かない。一方、庶民には庶民の人生があり、ふとした瞬間に漏れる、その人の生き様を凝縮したような言葉がある。その多くは「教訓」よりも「共感」をもたらす。

楽な仕事はひとつもなかったね

現代は、働くということについて、金銭的な対価と精神的な充足がそれぞれ別の目標として設定してあって、そのどちらもが高い次元で満たされることが幸福とされる社会ではないだろうか。けれども、民俗学者の柳田国男(一八七五ー一九六二年)の「労働を生存の手段と迄は考へず、活きることはすなわち働くこと、働けるのが活きて居る本当の価値であるやうに、思つて居たらしい人が村だけには多かつた」(『都市と農村』一九二九年)という文章を思い出すとき、現代社会で幸せを求めて生き、働くことの息苦しさを感じずにはいられない。

楽な仕事はひとつもない。仕事や人間関係のしがらみから解放された僕も、その対価としての賃金と時間とのトレードオフで思い悩むことに。楽をとれば賃金という対価は得られない。金銭的対価と精神的充足のバランスが難しい社会で生きる。何もかもしんどかったという言葉にそれが凝縮されている。多様化が叫ばれる今、何が自分の幸せか改めて考えさせられる言葉だ。

海が米の代わりにイカを釣れるようにして人をしなさえないようにしたんだべば

津波前はメヌケやイワシが豊漁であったが、津波の後は、イカがスカ(浜辺)に寄り、釣れに釣れたという。ヨシさんは、「海が米の代わりに、イカを釣れるようにして、人を死なせないようにしたんだべば」と語った。三陸沿岸に生きてきた人たちは、何度も繰り返して津波に遭いながらも、そこを去るということはしなかった。それだけ、海そのものを信頼していたからである。ヨシさんは、独り言のように、先と同じ内容の言葉を繰り返した。「海は人を殺しもするが、生かしもする」。震災から五年後の二〇一六年(平成二十八年)、ヨシさんは、その言葉を私の心に残して、一世紀に近い生涯を閉じた。

自然を相手に農業や漁業を営む人には頭がさがる。災害に遭うたびに都市部のサラリーマンにはない苦難に見舞われる。作る作物やなんかによっては不作や不漁の年があっても、豊作豊漁の時に蓄えた豊富な資金で暮らすことのできる人もいるだろうが、なかなかそうもいかないのが現実だろう。若者が後を継がず都市部に職を求めるのを見ればその苦労は一目瞭然だ。365日農作業で気が抜けなかったり、船の上で長時間格闘したり、考えられないような苦労をしながらも、自然に畏敬の念をもち、信じる姿は印象に残る。

欲がからんでくるけん覚えるのは早いわいね

「最初は、年取った人がおるやん。その人らがみんな知っとるけん。ベテランの職人さん頼んで。そやけどね、結局は、自分が商売しようとか、なんか起こそうとしよる人は、職人の人が何年かかってでも覚えにくい、三年かかって、五年かかっていうけど、本当に自分にやる気があるものやったら、一ヵ月か二ヵ月で覚えてしまう。性根が違うけん。失敗したら大きな損やし。欲がからんでくるけん、覚えるのは早いわいね」

職人の修行の場合、一人前の職人としての技術や心がまえを身につけるには3〜5年はかかる。しかし彼がいうには、大きな借金を抱えて一か八かの勝負に出ているので職人のそうしたならわしは無視。見よう見まねで必死に技術を習得。人が生きていく上では型にはまらないぐらいの気概がないと切り抜けられない場面はいくつもある。それを気づかせてくてれる言葉だ。

海は大きな生き物である

「海は大きな生き物である」と教えてくれたのも、伊良波さんである。その見せられた手記には、このように書かれていた。「海は地球上で一番大きい生き物である。また、心がとても広いのである。陸からの汚れを(人間が)流しても愚痴一つこぼさず、波を立て、流れを出して、綺麗にした後、ベタと凪ぎて静かになる。海はすばらしい大きな生きものであると考えて間違いないだろう」。そして、「漁業者は十年以上、海の経験をすれば、みんな海のように広い心を持つようになる」と結んでいる。

漁師はどこに行っても海は毎日違うからこそ面白いという。大きな生き物と相対するその姿は、漁師の心の広さも如実に語ることだろう。

村全体が大きな家族やった

願いごとのある人は石を川で拾ってざるに入れておく、するとだれともなくその石を持って集落の一番高いところに鎮座するお宮まであがっておいてくる。

これは「コーリトリ」という祈願方法だが、集落の結束の強さがうかがい知れる。

民族学者がフィールドワークで出会った庶民から発せられた名言を集めたものだが、人々の暮らしと言葉の関係性、対話などが詰まっていて読了後には心が広くなったような気にさせてくれる書籍です。

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