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君たちは本当にドラッカーを理解しているのか?

      2018/04/18

ファシズムの時代を生き抜いたドラッカーは、何と闘い、どんな世界を夢見ていたのか?「マネジメント」「リーダーシップ」「プロフェッショナル」といった言葉ともに、日本でも絶大な人気を誇る、経営学者・思想家のピーター・ドラッカー。あまたの本がビジネス分野ならびに自己啓発分野において出版されてきたが、彼の思想的な側面はこれまで十分に掘り下げてはこられなかった。本書は、ドイツ思想ならびに現代アメリカ思想、ポストモダン思想に通暁している、思想史家・法哲学者の仲正昌樹氏(金沢大学法学類教授)が、ドラッカーを“思想"という観点から書いた、これまでにない入門書である。ドラッカーのテキストを精読することによって、その思想を整理し、さらには同時代の西洋思想史(自由主義、保守主義、ファシズム、社会主義、ユダヤ思想、等)のなかに置き直し、新たなドラッカー像を提示する。

『大転換』の意義

人間の生活基盤を成す「労働」と「土地」までも商品化したために、「社会」は、「市場」を制御する方法を喪失し、自ら不安定化させていった資本主義の現状を、その根源にまで遡って再考し、「市場」と「社会」を再統合しようとするポランニーの戦略に、ドラッカーも基本的に賛同しているように見える。少なくとも、若きマルクス以来、経済と共同体の関係をめぐる問題を提起した数少ない論者、しかも反資本主義かつ反社会主義の独創的な視点から提起した論者として高く評価している。今後、真に総合的な経済理論が現れるとすれば、経済の社会的構造としてポランニーが抽出した「再分配 redistrbution」、「相互扶助 reciprocity」、「市場取引 market exchange」の三構造をその骨格とするものになるだろう、とも述べている。

ドラッカーはナチスの迫害から逃れるため、イギリスを経てアメリカに移住した時期にポランニーとかなり頻繁に交流をしていた。『「経済人」の終わり』と『産業人の未来』という二つの著作を読むと、その影響が見て取れる。『「経済人」の終わり』はタイトルからもわかるように、経済的合理性だけを追求する「経済人」を想定する古典派・新古典派の経済学の理論に依拠する現実の市場経済の構造的矛盾を指摘する著作だ。

ソ連の社会主義も、経済の計画発展に重きを置きすぎて別の「経済人」にとらわれ、真の自由と平等からはかけ離れた新たな階層社会を作り出して信用を失墜させたとも指摘している。ブルジョワ資本主義とマルクス社会主義の両方の失敗のため、ファシズムが台頭したというのがドラッカーの主張である。

ドラッカーの基本的スタンス

ここまでウィーン時代を中心に見てきたことから浮かび上がってくる、ドラッカーの思考の一定の特徴をまとめておこう。多民族であり、多様な文化の発展を許容したウィーンで育ち、幼い頃から周りの雰囲気に同調することを嫌ったドラッカーは、ナチスのような、多様性を認めない全体主義体制に反対するのはもちろん、集団的行動を強いる社会主義に対しても幼い頃から強い抵抗を感じてきたようである。

ドラッカーは社会主義社会になれば、犯罪は無くなるか、大きな問題ではなくなると主張するパンフレットを読み、自分が戦争抑止のために果たすべきだった役割について自意識過剰に語るパンフレットの著者をやや冷めた態度をとりながらも、ナショナリズムに負けてしまったことによって、「夢としての社会主義」が終わったと断じている。社会主義の幻想に対して一定の距離を取るドラッカーにとっては「市場」を再び社会に埋め込もうとするポランニーの試みも、多様性を抑圧する危険を秘めているユートピア思想に過ぎなかったのかもしれない。

彼のマネジメント思想は、不安定かつ共同体を崩す傾向にある市場社会において、個人や共同体がどう生き残るか、戦略を立てる中で醸成されたものと見ることもできる。

蔓延する絶望

二〇一六年のアメリカ大統領選でのドナルド・トランプ(一九四六〜)の勝利に象徴されるように、あからさまに矛盾した、あるいは非人道的な公約を掲げる(反)ポピュリズム的な政治家が大衆に支持される現象が、二〇一〇年代半ば以降、世界各地で起こっている。大衆に寄り添っているかのような耳当たりのいい言葉を語る既成の政治家やメディアが信じられなくなったため、良識的な風を装うことなく、無茶なことを言う扇動家の方が誠実に見えてしまうのだろう。だとすると、ドラッカーのファシズム全体主義論は優れてアクチュアルな性質のものである。

つまり、既存の信条や秩序を破壊し続ける、強い組織に所属していることが、支持者にとっての誇りになるわけだ。ドラッカーは組織を自己目的化する運動は長続きしないという立場を取り、その信念に基づいて「『組織』の栄光を最終目標とする思想に対しては、自由と平等というヨーロッパの伝統を基盤とする新しい秩序をもって対峙しなければならない」という。ドラッカーのイメージは「組織の人」であるという認識があるが、コミットすべき価値を示さないまま「組織」それ自体を自己目的化するような考え方とは一線を画していたと思われる。

もしドラで再び注目を浴びることになったドラッカーだが、その根底にある思想まで理解している人は少ないと思う。彼の生きてきた時代を横断し思想家ドラッカーを掘り下げる書籍である。

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