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『マルチバース宇宙論入門』宇宙論の最前線が描く驚くべき宇宙像

我々が全宇宙だと思っているものは、無数にある「宇宙たち」のひとつにすぎない。宇宙論の最前線である〈マルチバース宇宙論〉が描く驚くべき宇宙像は、20世紀末から本格的に行われた宇宙膨張に関する詳細な観測と、超弦理論やインフレーション理論といった最新の理論物理学の進展から、自然な帰結として導き出された。このマルチバース宇宙論の核心部分へと誘われてみよう。

ビッグ・バン宇宙に残された謎

現在では、もはやビッグ・バン宇宙論の基本的描像はほぼ疑いのないものである。それによれば、我々の宇宙はその初期にほぼ一様な超高温高密の世界であった。そして我々やその周りの世界を構成する物質は、反物質との対消滅を逃れたわずかな「残りカス」であり、また銀河、星、生命体を含むその全ての構造はたった10万分の1の初期密度揺らぎから生じた「さざ波」のようなものにすぎないのである。

ビッグ・バン宇宙論で説明できていない現象の一つとして、宇宙が極めて平坦であることが挙げられる。宇宙の異なる3点を線で結ぶ三角形を作った時、その内角の和が180度に性質である。2次元で考えるともし麺が平面であれば、三角形の内角の和は180度となる。しかしそれが球面(正の曲率、負の曲率)であると180度よりも大きくなったり、小さくなったりする。現在の観測によれば、宇宙は非常に平坦で曲率は極めて小さいことがわかっている。なぜ宇宙は正の曲率や負の曲率を持つものではなく、ちょうど中間の曲率ゼロの状態なのだろう?ビッグ・バン宇宙論ではその点が説明しきれない。

超弦理論と量子重力の問題

完全に量子力学的な重力理論は長い間その手掛かりさえもつかめなかったのである。その理由の一つは「発散」の問題である。アインシュタインの一般相対性理論を単純に量子力学的にして物理量(我々が観測できる量のこと)を計算すると、結果が全て無限大になって(発散して)しまうのである。しかしより現代的な観点で言うと、本当の問題は発散が出て来ること自体ではない。同様の発散は重力を含まない理論、例えば標準模型にも現れる。現代の我々は、20世紀半ばの多くの物理学者たちの研究のおかげでこの発散をどう処理するかも知っているし、それが何を意味するかも知っている。事実、重力を含まない「自己完結した」理論では、これらの発散は全て適切に処理することができ、それによって物理量同士の関係からは無限大は完全に消え去ってしまう。

しかし重力理論の場合同じようにはいかない。無限個の物理量の間の関係を考えた場合、特定の状況下で計算の精度を人工的に限った場合だけなのである。これでは完全な理論とは言えず、完全な量子力学的重力論はアインシュタインの理論を単純に量子力学的にしただけでは得られないのである。

80年代に入ると弦理論の持つ数々の好ましい性質が明らかになり、特に超対称性と呼ばれる構造を加えた超弦理論と呼ばれる形式の美しさに、希望を見出した。この理論が矛盾的な、重力を含む完全な量子力学的理論であることを証明したのである。

ユニバースからマルチバースへ

この永久インフレーションと超弦理論の余剰次元の構造ーーどちらも方程式としては1980年代に知られていた性質ーーを組み合わせた結果得られる描像は以下のようなものになる。それによると、時空では永久に加速膨張を続ける「背景」の中に無数の泡宇宙が生み出し続けられている。

これらの宇宙においては、素粒子の種類や性質から真空のエネルギーの値、空間の次元までもが異なっており、我々が住んでいる宇宙は無数の泡宇宙の一つに過ぎない。これこそ真空エネルギー値の問題を解くのに必要とされていた状態である。これが宇宙、ユニバースに対して「マルチバース」と呼ばれる描像の概要だ。ただ単に宇宙がたくさんあるといった、ぼんやりとしたものではなく、超弦理論や永久インフレーションなどの物理学の方程式によって自然に示されるものであり、観測されているダークエネルギーの値を説明するための現在我々が持つ唯一の理論である。

我々の宇宙の将来

我々の宇宙は現在138億歳程度である。(中略)我々の銀河及び太陽系の運命は、以下のようなものになると考えられている。約40億年後には我々の銀河系はアンドロメダ銀河と衝突、合体して一つの大きな銀河になる。(近傍の他の小さな銀河もこの巨大な銀河に飲み込まれる。)しかし、銀河の中の構成同士の距離は非常に離れているので、この際に恒星同士が衝突することはまずない。そのため我々の太陽はこの銀河間の衝突を乗り切れると思われるが、それでも今から50億年もすれば、燃え尽きて白色矮星と呼ばれる小さな天体になってしまう。

宇宙に想いを馳せるのは面白い。人間の寿命の限界から、地球の今後を見守ることはできないが、後世に知見を残そうとする学者たちには頭がさがる。僕が死んで、何十億年も経った宇宙はどんなことになっているのだろうか、興味は尽きない。

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