世界中の指導者や経営者の中にも愛読者が多い世界最古の兵法書である『孫子の兵法』をわかりやすい事例と共に解説。今も変わらぬ勝者の論理が学べる現代のビジネスマンも必読の書。
戦は素早く勝利すべし
戦は素早い勝利が不可欠で、長く続けるべきではない。 戦の利害を知る将は、国民の命を司る存在で、国家の命運をも左右する。
長期的にはまるで相手にならない強敵からでも、素早い勝利ならば勝ち取ることができる。 日露戦争における日本が、まさにそれだった。当時の日本の指導者たちは、人口も兵も財力も日本の数倍になるロシアと長い期間戦うのは不利だと判断していた。だから戦争の初期段階で勝利を重ねて機先を制し、後は外交で解決するというのが日本の戦略であり、それは成功した。
ビジネスの世界でも、素早い勝負で勝利する戦略が有効だ。例えば、テレビや地下鉄などで多く広告される映画があるとしよう。面白そうに思えて友達と映画館に行ってそれを観たあなたは「騙された！ 面白くない！」と感じてしまう。
もしかしたら自分だけがそう思っているかもしれないと思い、隣の席の友達の顔を覗き見ると、友達は寝ている。だが、もう遅い。すでにその時点で多くの人が騙されてその映画を観ているのであり、その映画は人気映画ランキングの上位に入り、莫大な利益を上げた後である。全ては映画会社のマーケティング戦略だったのだ。
この「短期間の集中的なマーケティングで、騙せるだけ多くの人を騙す」戦略は資本が多い者が好む、伝統的な手法である。失敗したらその分損失も大きくなる短所もあるが、圧倒的な資本力があれば成功する確率は高まる。このように自分の力量のすべてを短時間に集中して、素早い勝利を狙う手法は、いつも有効な戦略なのである。
最近の事例で言えばインフルエンサーマーケティングなんかがこれに当たる。フォロワー数が多いインフルエンサーに商品を紹介してもらい瞬間最大風速的にモノを売る。そして消費者は騙され購入するのだが、正直良さがわからないなんてことはザラにある。インフルエンサーも短期的にはこうした企業案件をこなしていけば稼げるのでついつい乗ってしまう。しかし、長い目で見たらしょーもない商品ばかり案件で紹介しているインフルエンサーは伸び悩み、フォロワーを失うことだろう。
超訳 情報の重要性
10 万の軍を起こして千里離れた国に出征すると、国民と国家が負担する費用が１日に１０００金かかる。そして国内外が大騒ぎになり、道路が混雑し国民は苦労し、農作業もできない所帯が 70 万に至る。こうして敵と数年間対立して準備するのは、ただ一瞬の勝利の為である。もし将が、官職とお金がもったいないと思ってスパイを遣わず、敵の情報が足りないが故に敗れるとすれば、とんでもないことである。このような者は将の資質がなく、君主をよく補佐することもできず、勝利の主人公にもなれない。
昔から利口な君主と賢い将軍が敵を破り、他国より優れた成功をつかむのは、初めから敵の事情をよく知っているからである。
敵の情報は、占いをして鬼神から得られることでもないし、昔のデータから得られることでもないし、経験から得られることでもない。 敵の情報は必ず人から得なければならないのだ。
昔の将たちは情報不足でいつも苦労していた。情報社会を生きている私たちは、インターネットなどで楽に情報を得ているが、当時の将軍たちは地図も正確ではないし、正確な統計もないし、出版物もなかったから正確な最新の情報を得る方法が滅多になかった。
情報は稀少、戦争は不安とくれば、将たちは自然と占いに頼るようになる。本文に「敵の情報は、占いをして鬼神から得られることでもない」と書かれているのは、そういった将たちを戒めているのだ。それから時が経って 21 世紀になったが、未だに進歩していない人がいる。 現代の我々の中にさえ、大事な決断をする時に理性的な判断より、運否天賦に頼る人がいるのである。
普段、数十円を節約する為に遠くのスーパーマーケットまで出向く人が、数千万、数億円の投資の判断を無根拠な直感に頼ったりする。これは愚鈍なのではなく、具体的な数字を計算してリスクを直視することが恐ろしいのだ。
大事に臨んでは、絶対に感情的になってはいけない。先に情報を集めるところから始めるべきで、その情報から最も合理的な判断を打ち出さなければならない。「人事を尽くして天命を待つ」の言葉通り、神仏や運に頼るのは、全力を尽くした後でも遅くはない。
情報をきちんと得てから大事に挑む。合理的かつ冷静な判断が勝利に導く唯一の方法。神頼みなどは全てやることをやってから。
最古にして最強のビジネス書を全文超訳。孫子の兵法を余すとこなく堪能できます。有名な一節から意外と知らない部分まであらためて読み解くことで現代のビジネスにも通ずる何かを得ることができます。
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