考えるということ、大事なのはわかっていても誰もその方法について教えてくれない。自分と向き合うことにより考えはより深い領域に。そうしたことの積み重ねがあなたを自由にする。誰にでも可能な新しい哲学。
考える体験としての対話
私たちは、「問う」ことではじめて「考える」ことを開始する。思考は疑問によって動き出すのだ。だが、ただ頭の中でグルグル考えていても、ぼんやりした想念が浮かんでは消えるだけである。だから「語る」ことが必要になる。きちんと言葉にして語ることで、考えていることが明確になる。そしてさらに問い、考え、語る。これを繰り返すと、思考は哲学的になっていく。 それで小学校では、この「問う」をもっと強調して、「分からないことを増やそう」と言っている。学校をはじめ、世の中では、いろんなことを学んで分かることを増やし、分からないことを減らすのがいいとされる。哲学はその 真逆 である。分からないことがたくさんあれば、それだけ問うこと、考えることが増える。だから、どんどん 分からなくなるのがいい、というのが哲学なのだ。最近は、学校だけでなく、セミナーやワークショップ、地域コミュニティなどで、社会人、主婦、教員など、一般の人たちの前でも哲学の話をすることが増えたが、そのさいもこの二つの定義、「問い、考え、語ること」「分からないことを増やすこと」が、いちばん納得してもらえる。さて、このような「問い、考え、語ること」という意味での哲学もまた、一般の哲学と同様、自問自答しながら「自己との対話」を通して一人で行うこともできる。だが、それはしばしば、孤独でつらい作業である。そういうことが好きだという、いわゆる哲学者気質の人種もいる。沈思黙考、物思いにふけるのに快感を覚える、そうせずにはいられない〝思考中毒〟の人間もいる。とはいえ、そんなのは少数派の変人である。むしろ多くの人にとって、一人で考えるのは、面倒くさいことだろう。自分に語りかけていても、途中で行き詰まり、堂々巡りするだけで埒が明かない。退屈だ。
賢明な人は日々自分に問いかける。習慣化されたそれは時に考えをより高みへと導く。とはいえ思考中毒になるほどの深い思考はいらない。どんどん自分に問いかけて、答えを導き出す練習を通して考える体験をより意味のあるものにしていこう。
答えのある問いの大切さ
問いには、はっきりした答えのある問いと、そうではない問いがある。「富士山の高さは何メートルか」という問いには、一言で明快に答えられるが、「富士山はなぜ神々しいのか?」にはいろんな答え方ができるし、簡単には答えられない。実際に明確な答えが出せるかどうかは、あまり問題ではない。たとえば、「この部屋に酸素分子はいくつあるか?」という問いは、大まかな数であれば、化学式を用いて計算できるが、正確には分からない。かといって、数が決まっていないわけではない。また中間的な問いもある。「日本人は何人いるか?」という問いは、日本国籍をもつ人の数を問題にしているのであれば、はっきり答えられるが、日本国籍をもつ外国人、外国籍をもつ日本人、世界のさまざまな国にいる日系の人を数に入れようとすれば、どのように答えるのか難しい問題である。少し意味合いは違うが、「閉じた問い(closed question)」と「開いた問い(open question)」という区別もある。閉じた問いは、簡潔に答えられて、それ以上の説明を要しないもの、開いた問いは答えに説明を要するものである。イエス・ノーで答えられるのは、閉じた問いが多いだろうが、人の意見を聞くような問いは、かならずしもそうではない。「死刑制度に反対ですか?」や「今の生活に満足していますか?」は、人によっても違い、簡単には答えられないので、開いた問いである。
答えのある問いでも自分の答えを出す過程を重視して、自分で考える癖をつけておくと良いだろう。イエス・ノーで答えられるものから高度な回答を必要とするものまで。様々な問いがあるが、その一つ一つを自分の頭で考え答えを導き出す訓練は後々あなたの財産となるだろう。
語ってから考える
哲学対話ではちゃんと話さないといけないという思いには、あまりとらわれないほうがいい。まずは話すこと、そこから始めればいい。そうして対話をしながら、他の人といっしょに言葉を見つけ、他の人から言葉を受け取り、自分の考えを伝える言葉を増やしていく。そうやって回数を重ねれば、誰でも自分の考えを語れるようになる。
まずは対話を行うことに着眼して対話の回数を増やしていく。そうやって自分の考えを意識することを繰り返していけば、誰でも自分の考えを語れるくらいになる。初めのうちはなかなか難しいだろうが、慣れるとどのような問題にも自分なりの答えを打ち出すことができるようになるだろう。
哲学と聞くと敷居が高そうだが要は考えること。人生100年時代思考のプロセスを体系化できればどんな難題にも自分なりの、環境なりの答えを導き出すことができるようになる。そんな下地を作ってくれる書籍。
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