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気にしない練習|名取 芳彦|不安・怒り・煩悩を「放念」するヒントを仏教的な視点から紹介

心配事や気掛かりなこと、人生にはたくさんあるが、そのほとんどは気にしなくていいこと。そうした呪縛から解き放たれ「気にしない人」になるには練習が必要。毎日晴れやかに過ごすためのメンタルトレーニングを仏教視点で見ていきます。

もっと「鈍感力」を磨く

仏教では、「いい人になりましょう」とは説きません。ここが道徳と違うところです。では、仏教ではどんな 旗標 を掲げるのでしょう。

私は「いつでも、どんなことがあっても、心がおだやかでいられる境地を目指したい人! この指とーまれ!」 と言っていると思うのです。

心おだやかな境地を目指したい心を菩提心と言います。仏教では、その 菩提心 を土台にして、具体的な生活方法を戒で説きます。

よく戒律と言いますが、戒と律は似て非なるもの。戒は自主的に「私はこれを守ろう」とする項目のこと。ですから戒を破っても、誰からも罰せられません。ダイエットしようと自分で決めたら、たくさん食べてしまっても、誰にも 咎められないのと同じです。

これに対して律は、法律という用語に使われるように強制力があります。律を破ると他から罰せられます。一つの組織に属している限り、「この規則は嫌だ」と言っても駄目です。律を破れば組織から追いだされたり、牢獄につながれることになります。

仏教にも律があり、破門されることもありますが、宗団に属しているお坊さん専用なので、一般の皆さんにまで適用されるものではありません。

さて、些細なことでも気になり、心おだやかな日々が送れない人のために、仏教には十善戒があります。十の善なる戒と書きますが、内容は〝遠ざかったほうがいい悪いことの十カ条〟。むやみな殺生、時間を含めた盗み、男女のよこしまな関係、嘘、きれいごと、乱暴な言葉づかい、人の悪口、物惜しみ、怒り、誤った見方の十種です。 「心おだやかになるために○○をしよう」と積極的に何かするのでなく、逆の発想で「○○しなければいい」と説きます。

悪いことからなるべく遠ざかっていれば、それでいいのです。「悪いことをしないだけで、あなたはいい人です」とも言えますが、仏教は「いい人」を目指すための教えではなく、心がおだやかになるための教えなのです。

仏教は他の宗教比べて緩い印象だが僧侶たちには割と厳しめの戒律があるのだそう。いい人を目指すのではなく心穏やかに過ごすための宗教なので悪いことからなるべく遠ざかるだけでも良いのです。無理して自分を曲げてまでいい人にならなくてもいというあたりが仏教らしい。

比べない、責めない、引きずらない

「あーあ。今日は何も面白いことがなかった。つまらない一日だった。世の中には今日もたくさん楽しいことや面白いことがあったはずなのに、そんな楽しいことと無縁の一日を過ごすとは、何とつまらないことだろう」なんて思うのは、感性がにぶっている証拠です。

朝食の料理に腕をふるうのも楽しいものです。歩いている時に、手が届く範囲の木の幹に触り、葉っぱを撫でるのもいいものです。通勤、通学の途中でマンウォッチングすれば飽きることはありません。仕事や勉強も、新しい工夫をしようとすれば新鮮な気分になれます。夕方や夜の散歩は、昼間とは違った景色を見せてくれます。

夕方の街を歩けば、家々の 夕餉 の匂いが翌日のわが家のメニューを教えてくれます。月明かりや街灯でできる自分の影を見て歩くのも、子供心に返ったようで愉快です。

新刊本だけでなく、昔読んで面白かった本を再読するのも一興です。レンタルビデオ店で興味のあるものを借りてきて観ることもできます。

疲れた身体でお風呂に入れば「極楽、極楽」と思わず声が漏れることでしょう。

このように、何気ない一日の中に私たちの心をなごませ、驚かせ、愉快にしてくれるものがたくさんあります。

それらに触れるだけでも、その日は最高の一日になります。禅語の〝 日 々 是 好日〟は、覚えておいたほうがいい言葉です。

仏教では比べることを勧めません。自分の幸、不幸は絶対評価で感じるもので、誰かと比べて自分が幸せだとか、不幸だと考えるのは、あてにならない相対評価だからです。

それにもかかわらず、自分と他人を比べて、自分のほうがましだと喜び、安心する人がいます。そんな人は、何もいいことがなかった、つまらないと思った日に、悪いことが起こった人と比べればいいでしょう。

比べられた人が知ったら怒るでしょうが、仕事やプライベートで最悪の一日を送った人に比べれば、何もなかった日はよい日です。つまらない日などありません。

私は「つまらない」が口から出そうになった時は、「つまらないと言いたくなるのは、自分の心のフィルターがつまって、風通しが悪くなっているからではないか」と考えるようにしています。

ひょっとして、「つまらない」が口グセになっていませんか。

毎日がつまらないと嘆く前に考えてみてください。毎日のようにハッピーな出来事が起こる幸運な人など皆無です。それよりも日常に起こる些細なことに喜びを感じられるように感受性を豊かにする努力を重ねた方が数倍良い。日常を彩るものは探せばいくらでも出てきます。眠っているあなたの感性を刺激してみては?

不安や怒り、妬みなど負の心持ちをどうにかして沈めたい!そんな人におすすめの書籍。仏教の教えがあなたにブレイクスルーを与えてくれます。

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