本を読んでは考え、そしてまた読む。本と対話しながらひたすらそれを繰り返した果てに見た極私的普遍の世界。そんな思考とセンスが研ぎ澄まされた著者の頭の中身を除いてみよう。
情報の豊かさの持つ諸刃の剣
ノーベル賞を取った経済学者、ハーバート・サイモンが素晴らしい言葉を残している。「情報の豊かさは注意の貧困をつくる」。ようするに情報と注意はトレードオフの関係にあるという洞察だ。情報が増えれば一つひとつの情報に向ける注意量は必然的に減る。情報が減ればそれに向ける注意量は増える。なぜか。肝心の人間の脳のキャパシティがこれまでもこれからもたいして変わらないからだ。インターネットがいい例だ。ネット上には大量の情報が存在している。しかし、情報はそこにあるだけでは意味がない。人間がアタマを使って情報にかかわって初めて意味を持つ。人間と情報をつなぐ結節点となるのが「注意」。人間が情報に対して何らかの注意を振り向けるからこそ、情報がアタマにインプットされ、脳の活動を経て、意味のあるアウトプット(仕事の成果) へと変換される。情報の流通はITの発達を受けて指数関数的に増大する。それとパラレルに人間のアタマの処理能力が増大すれば話は単純だ。ITの進歩がそのまま知的アウトプットの増大をもたらす。ところが実際はまったくそうなっていない。人間のアタマのキャパシティは幸か不幸か変わらない(おそらく幸だと思うが)。人間のアタマに限界がある限り、入手可能な情報が増えれば、一つの情報あたりに振り向けられる注意が減少するというトレードオフに突き当たる。当然ですけど。当たり前ですけど。数多の情報整理本は、人間のアタマのキャパシティが変わらないということ、それがゆえの情報と注意のトレードオフという本質を無視もしくは軽視して、情報の収集と整理の仕方をせっせと教えまくる。情報を効率的に取り込むためのツールが時代とともに変わるにしても、本当に必要なのは「注意の方法論」である。それを教えてくれる貴重な一冊が『スパークする思考』だ。
一見情報は多い方が良さそうなものだが、それを注意と天秤にかけるという思考。なるほど情報が溢れかえる時代ではより注意力が必要で、情報に振り回されれば振り回されるほど注意力は散漫になる。情報を取り込むためのツールも多様化して、今では一介の個人が放った情報がバズって世の中を席巻することだってある。SNS時代より情報との接し方には注意が必要だ。
イノベーターとしてのユーザー
「イノベーターとしてのユーザー」というのは次のような話である。今までイノベーションは供給側の仕事だと思われていた。たとえば半導体の製造装置。イノベーションは装置メーカーが起こすものだと考えられていた。ところが、イノベーションの発生プロセスをよく見たら、ユーザー自身がイノベーションを起こしているケースが少なくない。だとすると、供給側がどうやってイノベーションを起こせるのかということばかりに注目するのは片手落ちだ。重要なイノベーションの源泉に蓋をしてしまう。ユーザーのほうで起きているアイデアの創出をどう取り込むかにも目を向けるべきだ、という話になる。で、ハッとする。これが代替的論理の面白さである。第二のタイプは、「AであればあるほどX」という因果論理が広く世の中で信じられているところに「実はCという第三変数がある」という論理を提出するというもの。これもまたMITのトム・アレンという学者は、研究開発活動の成果に影響を与える変数として、どれだけ組織外の人と密にコミュニケーションをとっているかが有効であるということを検証した。普遍的な知識を扱う研究活動はタコツボになるとダメになるという「常識」を裏づける調査だ。これだけなら「まあそうだよね……」という話なのだが、アレンはそこに新たな変数を持ち込んだ。R&Dでも、基礎的なR(研究) に寄った活動もあれば、特定の製品をつくるためのD(開発) 寄りの活動もある。社内外の人とのコミュニケーションがR&Dの成果に与える影響は、仕事のタイプという媒介変数によって大きく変わってくる、ということにアレンは気づいた。製品開発のような組織特殊的な活動においては、文脈がわかってない外部の人とやりとりしてもノイズが増えるばかりで、成果には何のインパクトもない。Dが成果に対して正の効果を持っているというわけだ。ちょっと地味な研究の例ではあるが、視点が拡張し、ハッとする。物事についての理解が深まるし、新しいアイデアが出てくる(たとえば基礎研究部門のスタッフに学会に出張するコストをかける意味はあるが、開発プロジェクトのエンジニアに対しては、社内の飲み会や合宿ミーティングに時間とカネをかけたほうがペイする、というようなこと)。
研究と開発それらが持つ意味を理解していれば人とのコミュニケーションのとり方もちょっと考えるだろう。視点の拡張で理解が深まるタイミングはそれらを行き来することで生まれる場合も。
ストーリーとしての競争戦略。読書を突き詰めるとここまで行き着くのかと舌を巻くばかりだった僕。本質を捻り出す思考センスを磨くのに役立ちそうな書籍です。
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