世の中で起こるすべての失敗の裏に潜み、日本人が陥りがちな「8つの失敗の法則」をみていく。山本七平からゲーム理論までを引用しながら究極の日本人論を展開する。
浮き上がるワンマン経営者
西田の大胆な意思決定が成功した例も多い。印象に残るのは、HD DVDからの撤退だ。これは次世代DVD(デジタル・ビデオディスク) の規格として、ソニーやパナソニックなどのBD(ブルーレイ・ディスク) と競争していた。初期にはHD DVDが優勢だったが、ハリウッドなどの多数派工作に敗れ、二〇〇八年に西田が撤退を決断した。
こういうとき経営者が撤退しようと思っても、技術陣が「当社の規格のほうがすぐれている」と固執することが多い。ビデオの標準化競争で一九八〇年代にVHSに敗れたソニーの「ベータマックス」は、二〇〇二年まで製造していた。ベータのほうがすぐれていたとしても、標準になれなかったら収益は上がらない。
HD DVDは従来のDVDと互換性があり、製造が容易だったが、記録容量は三〇ギガバイト程度で、あまり大きくできなかった。これに対してBDは互換性がなく、当初は不利とみられていたが、容量が五〇ギガバイトと大きく、技術的に拡大できる余地が大きかった。西田が撤退を決断したときには、シェアが四対一ぐらいに開いていたといわれるが、まだ初期だったので、がんばれる余地はあった。
しかし結果的にはDVDは世代交代しないまま、記録媒体はハードディスクになり、さらに東芝の得意とする半導体メモリになった。五〇ギガバイトというのは、今なら携帯電話にも収容できる。情報流通の中心もインターネットになり、レンタル屋でDVDを借りて再生する人はいなくなった。HD DVDは負けたが、BDが勝ったわけでもないのだ。
WHの買収も、当時の経営判断としては間違いとはいえないが、原発事故という不運に見舞われたあと、経営が迷走した。事故が起こってからも、西田は会長として強気の方針を押し通し、二〇一四年まで会長として実権を持ち続け、後継者を指名した。彼が会長になっても「チャレンジ」を続けたのは、二〇一〇年に退任する日本経済団体連合会(経団連)の御手洗冨士夫会長の次をねらっていたためといわれる。
西田は経団連の副会長になり、会長の最有力候補だったが、同じ東芝の岡村正相談役が日本商工会議所(日商)会頭を務めていたため、「同一の会社が財界三団体のトップを占めることはありえない」という理由で見送られた。
これは奇妙である。岡村は二〇〇七年から会頭を務めており、そんなことは西田も知っていたはずだ。岡村が日商会頭を辞めないで西田の経団連会長を阻止したのではないか、というのが業界で流れている憶測だ。多くの相談役が「元老」として非公式の経営権をもつ東芝で、ワンマンの西田は浮いていたのかもしれない。
不正経理の指摘を受けてつくられた第三者委員会が、東芝の「トップが命令したら部下が逆らえない企業風土に問題がある」と指摘したのはおもしろい。トップの命令に部下が従うのは当たり前だが、日本の会社では当たり前ではないのだ。社の方針を決めるのは部下だから、西田のようなワンマン経営者は東芝のような大企業では挫折する。
記録媒体的にはDVD→BD→ハードディスクなのだがBDは値段が微妙に高いので記録媒体としてだけの利用で市販の映画などをBDでという使い方はあまりされていないような気がする。映画などは既に配信にシフトしておりDVDやBDの販売は落ちてきているのではなかろうか?
イノベーションとは「空気」を読まないこと
日本に生まれた外国人の子も、遺伝的な違いにかかわらず「日本的」になる。それがよくわかるのは在日韓国人で、在日二世以降はまったく日本人と区別がつかない。このため政治的理由で日本国籍を取らない人は、その民族的アイデンティティと日本社会の板ばさみになって苦しむ。
彼らはヨーロッパ社会でユダヤ人が負ってきたような「根無し草」としてのつらさを、子供のときから味わう。それを補うのは在日の仲間意識と、特殊な才能や富で日本人を見返すという気持ちだろう。よくも悪くも、彼らは普通の日本人の「空気」を読まない存在として育つ。それは社会的な「突然変異」としてイノベーションを生み出すことがある。
ソフトバンクの孫正義社長は、その最高の成功モデルである。彼は福岡県の在日コミュニティの貧しい家庭に生まれた。実家は密造酒の製造で成功し、パチンコ屋などを経営して豊かになったという。孫の成績は優秀だったが日本の大学に進学せず、カリフォルニア大学バークレー校を卒業した。日本に帰国して、通名の安本ではなく孫で起業し、一九九〇年に日本に帰化した。
ソフトバンクが通信事業に参入したのはいろいろな偶然の産物で、通信業界では誰も成功するとは思っていなかった。NTTの人々は、最初は笑っていた。二〇〇一年にヤフーBBがADSL(非対称デジタル加入者線) に参入したとき、それが成功する技術的な可能性はゼロに近かった。しかしITバブル崩壊で追い詰められた孫は、総務省に乗り込んで回線を開放させた。
ソフトバンクの孫正義社長を持ち上げる人は多いが彼も人間、展望を見誤ることも。新しい技術や会社、サービスなどに投資するのだが、それが失敗に終わり多額の赤字を抱えることに。それでも市場的にはこういった投資をしてくれる人間はありがたい。経済を回すという意味合いでは社会に貢献しているわけだ。
日本経済が世界に遅れをとる原因となった各企業の失敗を分析しながら解決策を考える土台を作る。失敗に学ぶことは昔からなされてきたことで教訓となる。ある意味ラッキーパンチで勝利した実例よりも失敗から学ぶ方が効率的だったりする。そんな失敗学。
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