世界中の土の種類は案外少なく、たったの12種類。肥沃な土のありかは?そもそも土とはどのような物質なのか?泥まみれになり地球を土目当てで巡った研究者の汗と涙が滲む宝の地図がここに。
世界の土はたったの12種類
「土は見た目が八割」と豪語したが、見た目だけで判断すれば、二割は間違うことになる。そうでなければ、専門家は必要ない。
昆虫や植物などの生物に分類上の名前があるように、土にも名前がある。生物の場合、今のところ知られているだけで、昆虫は 75 万種、植物は 25 万種、キノコは7万種もいる。これは学名を与えられた種数に過ぎず、未発見の名もなき生き物たちは星の数ほどいる。さて、土にはいくつ種類があるのだろうか?
実は、土の種類は 12 しかない。熱帯雨林を調査するたびに新種が発見され、種数を増やす昆虫や植物の世界とは少し事情が異なる。植物の名前を覚えようとして挫折した人間でも、 12 種類なら覚えられる。 12 という数字は、プロ野球の球団数と同じだし、サッカーの出場選手 11 人より少し多いだけだ。地味な土を研究対象としたことは、間違いではなかったと確信した。
土に近代科学のメス(スコップ)が入るようになったのは、「土壌学の父」ドクチャエフ(ロシア)が活躍した150年前のことだ( 10)。彼の少し前を生きたチャールズ・ダーウィンが生物の進化論を打ち立てたことに触発されたという。「土壌の材料となる岩石(地質)や地形、気候、生物、時間という五つの環境条件によって、土も変化する」ことを発見した。穴掘り名人たちが世界中の土壌を調査し、類似する土壌を大胆にまとめていくと、世界の土はたったの 12 種類になった。農業利用のためではあるが、ずいぶん大胆に分けたものだ( 11)。
もちろん、細かく見ると、同じ土は一つとしてない。それはヒトと同じだ。それでも、ある程度似た土はある。例えば、ウクライナのチェルノーゼム、北米のプレーリー土、中国東北部の黒土( 黒土)、南米のパンパ土は違う言語や地域名を背負っているが、土そのものはとても似ている。乾燥した草原に発達する肥沃な黒い土だ。小麦のタネをまけば、穀倉地帯となる。肥料のやり方も水やり(灌漑)の方法も似ている。これをひとくくりにして名前を付けて管理するのが土の分類である。
12の土には小難しい名前があるが、ここでは色で大まかに分けると、黒い土が三つ、赤い土が一つ、黄色い土が一つ、白い土が二つ、茶色い土が一つだ。残りの4種類の土は土の色と関係なく、凍った土、水浸しの土、乾いた土、そして何の特徴もない〝のっぺらぼう〟な土だ(図21)。
世界で最も肥沃な土として名高いチェルノーゼムなら、知っている人もいるかもしれない。あとは、よく分からない。園芸店に並ぶ腐葉土や鹿沼土はどこにいったのか? 12種類の土の違いは何か? どうして違う土が生まれたのか? 地理の教科書を読んでも、よく分からなかった。実はまだ分かっていないことが多いのだ。
すでに分かっている重要なことは、「肥沃な土」という名前の土はなく、12種類のどこかに散らばっているということだ。まずは自分の目で実物を見て、12種類の土を知るしかない。大学4年生になっていた私が選んだのは、土壌学研究室。ようやく肥沃な土を探す旅が始まろうとしていた。
昆虫や動物などと違って案外種類が少ない「土」。12種類しかないというのには驚きだが、その中でも判別が難しいものもあるという。ではどのような土が肥沃な土なのか?そんな研究対象を追っていく。
土に恵まれた惑星、土に恵まれた日本
平均的な日本人の土との関わりを再現しよう(図 92)。朝食は チェルノーゼム で育てた小麦パンに北欧の ポドゾル でとれたブルーベリー・ジャム。 粘土集積土壌 の飼料で育てた牛からとれるミルク。お昼は、アジアの熱帯雨林と 強風化赤黄色土 が育む香辛料(ウコン)を豊富に使ったカレーライスと 火山灰土壌 でとれた野菜サラダ。おやつに 砂漠土 のナツメヤシの入ったオタフクソースをかけたたこ焼きを頰張る。夜は 未熟土 でとれたおコメ、黄砂( 若手土壌)に育まれた太平洋マグロのお刺身。シベリアの 永久凍土 地帯からやって来る冬将軍に怯えながら、 ひび割れ粘土質土壌 で生産されたコットンを 泥炭土 の化石である石炭で青く染めたジーンズをはき、石炭で発電した電気ストーブで温まる。そして、 オキシソル を原材料にしたスマホを大切そうに握りしめている。
ヒトほど土を資源として多種多様に利用する動物は他にいない。カロリーベースでは大したことはなくても、代替不可能なサービスを提供してくれている土もある。ちなみに、「犯罪を生み出す土壌」は存在しないし、土は犯罪を生み出さない。生み出すのは、食と命だ。
日本人はやはり日本の火山灰土壌や未熟土と密接に結びつき、その恵みを享受していることが分かる。食糧自給率の低さや農地面積の減少、農業の担い手不足という暗いニュースに覆われて忘れがちだが、日本は農業大国になれるだけの肥沃な土を持っている。私たちは国土を危険にさらす外国の脅威には敏感になれるが、その国「土」が荒廃しつつあることには鈍感であることが多い。土の発達には数千年かかるとか、汚染土壌の修復に数百億円かかるという事実に愕然とする前に、予防も可能だ。
なにも今から畑に出て土づくりを始めなくてもいい、スコップを持って12種類の土をめぐる旅に出る必要もない。それでも、土壌に恵まれた惑星、そして、土壌に恵まれた国に育った人間として、ただそこに当たり前のように黒い土があることの有難みを知っておいてもいいはずだ。土に関わる少数派として、地球の土、日本の土の価値を発信する責務の一端を果たしたいと思う。1800円のしおれたハクサイを買わなくてもよい生活を守るために。
日本は比較的肥沃な土地で農業に適した土地とも言える。米文化が浸透したものそのせいだ。土壌に恵まれたのは地球そのものもそうだと言える。そんな地球の土、日本の土の価値を感じてもらいありがたく農作物をいただきたい。
なかなか取り上げられることも少ない「土」にスポットを当てた書籍。日本人が安価な野菜を食べられるのは肥沃な土地の「土」のおかげ。1800円のしおれたハクサイを買わなくてもよい生活を支えてくれる土に感謝しながら読む書籍。
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