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南海トラフ地震|山岡 耕春|今後三〇年以内の発生確率が約七〇パーセント

30年以内発生率70%マグニチュード8〜9クラス、日本列島の宿命とも言える地震『南海トラフ地震』。未曾有の大災害をもたらす可能性のあるこの地震、いつ来るのか?どう備えるのか?第一人者が語ります。

東京では何が起きるか

三つの都市のうち東京は南海トラフの巨大地震の震源から最も離れている。そのため震度で表現される揺れの強さは震度五強ほどである。二〇一一年の東北地方太平洋沖地震の東京における震度も最大で五強であったことから、南海トラフの巨大地震でも東京では同程度の揺れだろう。また、東京は入り口の狭い東京湾の奥に位置する都市であり、さらに南海トラフに対して伊豆半島の陰になるため、津波もさほど大きくなることはない。最悪のケースを想定しても浸水の影響は小さい。

その一方で、東京では 長周期地震動 と呼ばれる、ゆっくりとした振動の影響が懸念される。長周期地震動の大きさは、震度の数値では十分に表現できない。地震が巨大になればなるほど周期の長い震動のエネルギーは大きくなり、高層ビルや石油タンクなどの巨大な構造物に与える影響が無視できなくなる。長周期地震動は通常の揺れに比較して遠くまで減衰せずに伝わるため、震源から離れていても揺れは大きい。このようなことをふまえて、東京で何が起きるかを考えてみる。

東京での震度は震度五強程度であることから判断すると、建物の倒壊などの大きな被害が出ることは少ないと考えられる。しかし、東京都内でも地盤によって揺れやすさが異なる。とくに、東部の隅田川・荒川沿いや、東京湾沿岸の低地や埋立地は、都内でも最も揺れやすい場所であり、細心の注意が必要である。東北地方太平洋沖地震の際にもあったように、老朽化や施工不良などにより強度が低下している建物が壊れることはあるかもしれない。油断は禁物である。

長周期地震動の影響は未知数である。東京は国内でも断トツに高層ビルが多い地域である。東日本大震災の際にも、都内の高層ビルが大きく揺れた。揺れの映像は動画投稿サイトで観ることができ、建物がゆっくりと揺れる様子が目に見える。南海トラフの巨大地震が発生した場合、東京における長周期地震動の振幅は東日本大震災時よりも大きいという試算もある。複数の方向から伝播してきた地震波の山と山、谷と谷が重なった場合には、さらに振幅が大きくなる。

最大震度5強ならば揺れ方の種類にもよるが被害はさほどではないかと思われる。しかし、そうとはいえ可能性を考えると油断はできない。同じ建物同じ階でも食器棚から食器が落ちてきた家庭もあればほぼそういったものが落ちるなどはなかった家も。うちは大した対策をとっていなかったのだが後者に当たる。運が良かったとしか言いようがない。

稀な大規模現象

このような自然災害の多い国に住む私たち日本人が、その自然災害の性質としてぜひ理解しておきたいのが、「大規模な現象ほど頻度が低い」ということである。

最近では「低頻度巨大災害」という表現がなされることがあるが、これは「大きな災害ほど稀である」という性質を言い換えただけである。大きな現象ほど稀であるという性質は、地震学においてはグーテンベルク─リヒターの法則としてよく知られている。世界中のほとんどの場所における地震でマグニチュードが一増えると頻度が一〇分の一になるという性質が成り立っているのである。火山などの特殊な場所では、普通の地域よりも大きな地震が起きにくいものの、大きな地震ほど頻度が小さいという性質は変わらない。

火山噴火においても同様である。日本列島では、今日起きれば現代の文明を滅ぼすほどの威力を持つ火山噴火が過去に発生したことがある。南九州では鹿児島湾北部の 姶良 カルデラ(二万九〇〇〇年前)、鹿児島湾南部の 阿 多 カルデラ(一一万年前)、九州南方の鬼界カルデラ(七三〇〇年前と九五〇〇〇年前) で、それぞれ巨大噴火が発生している。阿蘇カルデラでは、九万年前、一二万年前、一四万年前、二七万年前に巨大噴火が発生した。

このような巨大噴火が発生すると数百立方キロメートルもの火山灰を噴き出し、九州の半分くらいの面積が火砕流で覆われる。火砕流は高温であるため、火砕流で覆われた場所の生物は死滅する。火山灰は西風に乗って日本列島の広い範囲に降りそそぐ。姶良カルデラの噴火では関東地方でも一〇センチメートルの火山灰が積もった。いま、このような噴火が起きれば、九州が壊滅するだけでなく、日本列島全域にわたって農業が壊滅的な打撃を受けるだろう。

さらに、成層圏にまで噴き上がった火山灰は、数年にわたって太陽光をさえぎり、日照量の減少が世界的な食糧不足を引き起こすだろう。そうなれば、世界各国が日本を助けてくれる余裕はなくなる。多くの餓死者が出るかも知れない。

幸いなことに、日本という国は有史以来、このような巨大噴火を経験せずに文明を育むことができた。過去一世紀で最大の噴火は一九一四年の桜島噴火だが、噴出量は〇・六立方キロメートル程度である。一七〇七年の富士山宝永噴火でも、噴出量は〇・七立方キロメートル程度であった。巨大噴火は、それらをしのぐ想像を絶する規模の噴火である。ごく稀ではあるが、それは起こりうる噴火である。日本列島に住む以上、私たちはそのことも知っておかなくてはならない。

よく富士山が噴火した際の火山灰のことが言われているが関東一円それに悩まされると。自分が生きている間に起こるかどうかはわからないが、可能性として知っておくべき災害の一つかと思う。平和ボケではないけれど災害も忘れて油断していたところに甚大な被害をもたらす。僕らにできることといえば心構えとわずかばかりの対策だけ。地震や火山の噴火以外にも国によっては海面の上昇による水没の危機だとか自然がもたらす影響はさまざま。向き合い対策し忘れないことが大事かと。

南海トラフ地震について知りうる知識をこの一冊に凝縮。正しく恐れて対策を促す書籍。日本に生まれた宿命とも言える地震と火山の噴火を中心にその恐ろしさと対策を共有。

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