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ブルシット・ジョブの謎|酒井隆史|クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか

ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)誰も見ない書類作成、無意味な仕事を増やすだけの上司、ゴマスリ秘書、価値のない商品を広める広告や広報。こうしたブルシット・ジョブはなぜ高給で社会的地位の高い仕事ほど報酬が低いのかを深掘り。

なぜ無意味な仕事をするのか

前講で、ひとつペンディングにしていた問題があります。そもそも、なにゆえ人は、実質的にやることがないのに仕事をでっちあげてでもさせようとするのか、しなければならないと考えているのか、です。

仕事は、ひとまずなんらかの目的達成を名目としているはず。だったら目的達成したら、その時点で帰ってもいいとなりそうなものです。「市場原理」からしても、です。ところが、そうならないから、BSJが生まれ、数々の証言となって『ブルシット・ジョブ』に報告されているわけです。

グレーバーはここでじぶんが学生時代にバイトした例をあげています。レストランのバイトです。バイト仲間といっしょに、最初はいわれた作業を最速で仕上げようと、全力をあげて短い時間で与えられた作業を終えます。当然、ボスからはほめられるとおもいますよね。ところが、ほめられるどころか、イヤな顔をされて、怠けるんじゃないよ、と叱られます。それでグレーバーたちは、つぎからはのろのろと仕事をすることにした、とそんなエピソードです。

作業を効率よくすますことよりも、とにかく仕事時間中はずっと仕事をしている様子をみせることや、がんばっているふりをしていることのほうが大事、ということは往々にしてあるのです。

古い日本式の働き方を言われているようで笑えた。残業するのが会社への忠誠心みたいな時代があった頃が懐かしい。社畜が今月の残業時間を競い合う世界。いまだに人不足の職場ではこうした作業効率が悪い働き方がよしとされているのは残念なことだ。仕事を無理くり作り出して働く様は他の国の人から見たらおかしな光景なのだろう。

普遍的ベーシック・インカムが解放するもの

グレーバーは、ベーシック・インカムを介して、この多数の人を苦しめている、そしてわたしたちの社会を殺伐とさせている一因としてのBSJの増殖を、労働から解放のヴィジョンによって乗り越えていく道筋を示しています。

グレーバーが念頭においているのは、普遍的ベーシック・インカム(Universal Basic Income:以下UBI) です。つまり、所得の高低にかかわらず、無条件に所得保障をおこなうというものです。

これはある意味で、ケインズのヴィジョンが実はいま実現可能であるとして、どうすればそれができるのか、ひとつの具体的イメージをつくってみること、そして、ケインズが思案してみせた労働から解放された人間のあり方をみんなで想像してみようということの呼びかけです。

グレーバーは、本当はこうした具体的提案のようなものはなるべくしたくなかったといいます。ひとつにはもちろん、未来を予言し、その青写真によって人々を手引きするという知識人像をアナキストであるかれは拒絶しているからです。そしてもうひとつ、これはよくわかるのですが、かれもいうように、こうした提案をしてしまうと、そこに注目が集まり、最悪の場合、その「解決策」ばかり読んで──ミステリーで、発端を読んでからすぐに解決部分を読むようなものです──、それでその仕事を判断されてしまうからです。それに、ベーシック・インカムというと、いまや右派の政治家すら、打ち出の小槌のごとく解決策としてふりまわす傾向にあります。だから、注意が必要です。

たとえば、2020年、コロナ禍のなかで、ひと月7万円のBIがネオリベラルの知識人であり政治家でもある人物から提案され、おおかたのひんしゅくをかいました。7万円では暮らしていけませんから、生活のために働かねばなりません。ところが、7万円の保障があるものだから、それでさまざまの社会保障は削減されるでしょうし、賃金も下げられるでしょう。いま以上に劣悪な条件で働かなければならないかもしれません。しかも、保障の質も低下しています。BIそのものは地獄も招きかねないということです。だから、BIそれ自体ではなく、どんなBIか、どんなヴィジョンのもとにあるBIかを問うことが大切なのです。

グレーバーがここでUBIをひきあいにだしている真意は、これまでみてきたように、わたしたちのなかに強力に根づいたコスモロジー、このブルシットなゲームを駆動している世界観を相対化し、わたしたちの想像力を解放する呼びかけにあるとおもいます。

グレーバーにとって、UBIは、BSJ現象の解消への道筋を、官僚制ひいては国家から解放される道筋とともに想像することを可能にしてくれます。アナキストであるグレーバーにとって、国家の統制による解決は望ましいものではありません。「国家を徐々に小さくしていきながら、同時に状況を改善し、人々をしてより自由なかたちでシステムに挑戦するように仕向ける」。かれはそのような可能性をUBIにみています。というか、国家や政府の統制による解決こそ、より多くのBSJをつくりだすということはみてきました。たとえば、福祉国家はたしかに人類の達成したひとつの成果であるのかもしれません。しかしそれは、巨大な官僚制を生みだしました。保障の条件を確認するため、人は監視され、管理され、その都度、その条件を充たす資格の有無を判定されました。そして、そのためのお役人とお役所仕事も膨大なものにのぼりました。くり返すと、そのような弱点にネオリベラリズムはつけこんだわけです。

中途半端なベーシックインカムは逆効果になるだろう。格差はさらに広がり、ベーシックインカムでギャンブルに勤しむ人が現れたり予想がつく事象でも問題点がいくつもある。それでもやはり高収入な一部の人たちの資産が大半を占める世の中は不公平だ。日本の場合、ある一定額までは累進課税が効いているが、それを超える資産を持つ人たちに対する課税は不公平なものになっている。これが改善しない限り不公平感は拭えない。そんな事実も知らずに税金を払い続けるその他大勢の憂鬱は言わずもがな。

誰もみないような書類を作り続ける仕事、この国には必要性が謎な仕事が多数あってそれらにスポットを当てた面白い書籍。無意味な仕事をする人が高給だったりする矛盾を時に面白おかしく描いている。

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