キリンビールの常識外れな大改革。「アサヒスーパードライから首位奪還せよ」の号令をもとに奮闘したキリンビール元営業本部長の「売る」ことに真摯に向き合い実践した方法を振り返る。
高知の戦いで「勝ち方」を学んだ
負けている原因をずっと聞き回っているうちに、不思議だなと気付いたことがありました。
それは、同じ高知県内でもキリンビールのシェアが高いエリアと低いエリアがあること。キリンビールのシェアが 30%ぐらいと極端に低いところがある一方、高いところは 60%を超えているところがあります。同じ高知県民で同じ広告を見ているのになんでなんだろう、と思いました。担当の営業マンに聞いてもわからない。そこで、アサヒが 70%とひとり勝ちしている高知市の北にある鏡村(当時)に出かけていきました。
行ってみると、村のまん中に温泉がありました。村の人たちが農作業を終えたあとで汗を流して、そこで風呂上がりに、高知ですからビールと日本酒をたくさん飲むわけです。その温泉施設にはアサヒのスーパードライしか置いてありませんでした。
一緒に風呂に入って、キリンの営業と名乗って、村人にそれとなく聞いてみました。 「いつからアサヒに変わったんですか」 「なんとなくだなあ」 「なんとなく、っていつごろですか? もしかして、温泉施設がスーパードライに変わってからですか?」
仮説をぶつけると「そう言えばそうだなあ。皆がさっぱりして美味しいって言うもんだから」と話してくれました。
毎日温泉に浸かって、スーパードライを飲んで帰る。そういう毎日を続けていると、舌がスーパードライの味に慣れてくる。そして、味に慣れると、家に帰っても酒屋さんに注文するのがスーパードライになってくる。その繰り返しのなかで 70%のシェアを獲得するに至ったのだろうということがわかりました。
やはりアサヒビールが 60%のシェアをもつ越知町にも、行ってみました。ここには温泉施設はありませんでした。それで町の料飲店をかたっぱしから回ってみると、どういうわけか、料飲店の 70 ~ 80%がアサヒビールしか置いていなかったのです。ここも毎日、店でスーパードライを飲んで帰宅するから、舌がその味に慣れて家でもスーパードライを飲むというサイクルができていることがわかりました。
もうひとつ、話を聞いて知ったことがあります。それは「アサヒビールがキリンビールを抜いたという報道を見たので、飲んでみようと思った」「スーパードライが売れているというから、飲むようになった」というコメントを聞くことが多く、いわば「波に乗って」飲んでいる人が高知にはとくに多いようでした。
温泉施設においてあるビールがアサヒスーパードライだからそれを家庭でもという需要はなかなか気づきにくいもの。それに気づき対策を練るあたりさすがの嗅覚としか。風呂上がりのビール習慣がついている人にとっては銘柄も大事。舌が慣れ親しんだ味を求めるのもわかる気がする。そこに辛口のスーパードライというのも強かった原因かも。
舞台が大きくなっても勝つための基本は一緒
数字も、やはり全国レベルで上がってきました。そして、着任してから3年目の2009年、いよいよキリンビールがアサヒビールを追い上げ、僅差となってきました。全国の営業マンにもそのころにはシェアを奪回するのだという気持ちが行きわたり、学生時代の同級生や親戚に頼んで何ケースか買ってもらう、という手立てをしている人までいました。
10 月、わたしはリーダーに対して、具体的なメッセージを送りました。
トップシェアをとるために、今何を為すべきか、という内容です。
あなたたちリーダーは何をするのか、直接リーダー全員に尋ねたいところですが、時間がないのでわたしから話をします、と。
まず、リーダーがほんとうに覚悟を決めて腹をくくれ。現場からみると、口だけで先頭に立たないリーダーの言うことは聞きたくない。だから、部下が「この人のためならしょうがない」と思うような100度の熱を出し続けろ。
年末に勝利することだけに集中しろ。リーダーが販売数を積み上げる主体的意識をもて。メンバーにまかせています、ではなくリーダーが出向いて今すぐ一緒に課題解決する姿勢であたれ。
目標達成は当然のことで、まだ打てる策はないか、もっと数量は積み上げられないか、考えろ。
料飲店では、訪問で種を蒔いてあるのだから、確実に刈り込んで数字をつくれ。
宴会シーズンは瓶が出るから、1ケースでも積み上げる料飲店活動を推進しろ。
量販店の本部担当は年末までの販売計画を至急確定させろ。
小さい量販店や小さいスーパーもとにかく回れ。
スタッフは営業と一緒に現場に行って、勝つためにどうしたら数字がつくれるかを考え、必要と思われることをサポートしろ。
マネジメントのトップというのはふつうここまで具体的な指示はしませんし、とくにわたしはこういう指示はしてきませんでした。しかし、このときだけは別でした。
勝負時というのは具体的なディテールがすごく大事なのです。そこはわたしが伝え、それを各リーダーがメンバーにそのまま伝えていくやり方をこのときばかりはとったのでした。
現場での陣頭指揮は各リーダーの役目だがトップダウンで行うメリットもやはりある。勝つための意識の共有がこの方法だと伝わりやすい。
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