アメリカや中国では、もはや消費者にとって買い物は「面倒くさいもの」という扱いになっていて、必要なはずだったプロセスを次々に省略している。たとえば、以前は「たくさんのものの中から選べる」ことがネットショッピングの価値だったが、いまや大半の消費者は、「選ぶ」ことは面倒くさいと感じている。こうした状況でAmazonは、買い物の大半は「摩擦」だとして、顧客が求めているものをAI技術により推測して提示するなど、摩擦をできる限りなくす方向に動いている。欧米のハイブランドも、もはや「ショッピング体験」ではなく「Unboxing(アンボクシング=届いた箱を開けること)」の部分の演出に力を入れている。こうした変化をまとめつつ、約5年後の近未来を占う一冊、あなたにもぜひ読んでほしい。
デジタルシェルフ
これからの10年は、この変化がさらに加速する。AI(人工知能)の飛躍的な進歩、5G(第5世代移動体通信システム)のサービス開始といった技術革新は、もう間もなく起こることだ。社会的にも大きな変化がある。子どものころからSNSに慣れ親しんできた〝SNSネイティブ〟の世代が成人し、購買力を持つようになるのだ。こうした変化が進展していくことで、人々は間違いなく「買い物をしなくなる」。もちろん、お金を支払って何かを買うことがなくなるわけではない。なくなるのは、これまでの買い物における様々なプロセスだ。店に行くことや、現金を用意すること、商品の現物を見ること、さらには、商品を自分で選ぶことも含まれる。これまで当たり前だったプロセスが次々に省略され、そのうち「買い物をしている」という感覚さえなくなって行くのだ。その過程で私たちを待っているのが、本書で詳しく述べる「デジタルシェルフ」である。デジタルシェルフとは、ショッピングサイトの商品一覧のように、物理的な棚がデジタル上に置き換わっていくことを意味するが、本書及び私の会社(株式会社いつも.)が考える定義では、その言葉をより広い意味で捉えている。ここでいうデジタルシェルフとは、「世の中の電子化が進む中で、日常の身の回りにある、ありとあらゆるものがシェルフ(商品棚)になること」を意味する。
日々僕が実感しているのは買い物にかける時間が少なくなっているということ。つい最近だと、Appleの新製品16インチMacBook Proの購入にかけた時間は1時間程度。迷った時間も以前と比べて格段と短くなっている。昔は雑誌などで新製品の情報をゲットしてMacを取り扱っている専門店を調べてまずは商品を触って見る。そこで購入検討しいったん家に帰り、再度来店し購入といった流れで買っていたが、現在では新製品が出る前のリーク情報なんかで概要を知り、買う気満々で、発売日を待つ。そして発売と同時に購入することが多くなった。洋服なんかも以前なら百貨店やショッピングモールに出かけて一日かけてショップをまわり、商品を購入していたが、現在ではアプリで欲しいものを検索してそのままアプリ上で購入することが多い。以前のようなショッピング体験の楽しさは、商品が到着した時のいわゆる「開封の儀」に集約されるように。各ブランドも、それを見越してか凝った包装をする会社が増えてきたように感じる。「Unboxing(アンボクシング)」=「届く瞬間、箱を開ける瞬間のユーザー体験」を最も重要視している。そのためイケてる箱をどう作るかなんてことも考えられているのだ。
可処分時間を奪うスマホ
インターネット社会になってから、私たちが日々取得する情報量は爆発的に増えた。われわれは朝起きてから夜寝るまで、ネットでニュースを見たり、SNSをチェックしたり、仕事のメールに返信したりと、ほとんどの時間、情報とつながっている。いつ誰からメッセージや着信が来るかもわからない。何もしていないはずの待機時間すら、情報とつながっているのだ。この情報と私たちをつないでいるのは、先にも述べたように、スマートフォンである。スマートフォンの登場で、私たちはインターネットではなく、情報につながるようになった。皮肉な話だが、便利なアプリが増えれば増えるほど、私たちが新たに確保した可処分時間はスマートフォンに奪われる形となっているのである。
最近ではVRの技術が目まぐるしく発達している。近い将来メガネぐらい小柄化されたヘッドマウントを装着してリアルな世界を歩く人が現れるかも。そこでは画像認識技術によって目の前に歩いている人のバッグや洋服がどこのブランドのものかが表示され、ヘッドマウントについたボタンをクリックすればそのバッグなどを購入できるような世の中になるかもしれない。こうして日々ショッピングの形態は進化している。
人は「買い物」しなくなるというちょっと消費者を釣ったタイトルだが、ショッピングの仕方が世代ごとに異なってきている現状と、これからのショッピングのあり方を示唆した面白い書籍でした。買い物って10年前とはずいぶん変わってきたよねと思えるショッピングの変遷史でもある。
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