土地所有者の居所や生死が判明しない、いわゆる土地の「所有者不明化」問題が、日本各地で表面化している。災害復旧、耕作放棄地の解消、空き家対策で、土地の所有者の特定に時間がかかり、支障となる例が各地で報告されている。こうした問題がどの程度起こっているのか?そもそも土地制度設計に問題はないのか?またこれからどうなっていくのかを論じていく。
全農地面積の約2割が相続未登記
農林水産省は12月の調査結果を公表した。そこでは、農地の登記名義人について、固定資産税台帳および、住民基本台帳上のデータとそれぞれ照合したところ、登記名義人が死亡していることが確認された農地(相続未登記農地)は、47万6529ヘクタール。さらに、登記名義人の市町村への転出などにより、住民基本台帳上ではその生死が確認できず、相続未登記となっている恐れがある農地は45万7819ヘクタールだった。
合計すると約93万ヘクタール、全農地面積の約2割にのぼる面積だ。そのうち、農地として活用されていない遊休農地は約5万4000ヘクタールで全体の4割を占める。近年、この問題がもっとも大規模に現れたのが、東日本大震災の被災地だ。復興のための高台移転や防潮堤の用地取得では土地の権利関係の調整や相続人の追跡に膨大な時間を要し、災害公営住宅の整備が大幅に遅れるなどした。登記簿上の名義人が死亡者のままであることに加え、複数名の共有地でありながら「何某ほか何名」とあるのみで、他の共有者名が記載されていないケースも。
なぜ管理を、権利を放置するのか
親の家を相続してそのまま自分が住み続ける、あるいは、親の土地を現状のまま利用し続けるぶんには、未登記のままでもさしあたって支障はない。とくに地方では、「相続登記をしていなくても、近所の人たちは『あれは〇〇さんの山だ』ということをわかっている」「ここの土地は代々うちの家が住んでいることは、登記しなくても明らかだ」という認識が強い。手間と費用をかけて相続登記する必要性を感じないのである。相続した親の土地の登記をしていないと話す60代の男性は、「田舎では昔は自己資金で建てた。そのため、ローンを組むために登記を自分の名義に書き換えておく、といった手続きも不要だった」という。
僕の父型の祖父母の家は父がしっかりしていたせいもあり、残された預金やなんかと一緒に財産分与を兄弟姉妹3名でしっかり行った。しかし、母型の祖父母に家は、田舎で空き家となっているせいもあり、たまに手入れに兄弟姉妹4人で帰省してはいるものの、相続の手続きは未だ行っていない。田舎なので、資産価値もさほどなく、権利を放置している状態だがいずれ手続きしなくてはならないと親戚で話題にのぼることもある。
社会の変化に起因する理由(最多は相続放棄)
一方、社会の変化に起因する理由として、もっとも多くあげられたのが、「相続放棄・相続人不存在が増える」(72自治体)だった。具体的には、「死亡した所有者と疎遠な関係の相続人の場合、当市の土地は資産価値が低く、売買も難しいことから相続放棄となる。相続人が市外に居住しており、管理もできないなどの理由で相続放棄となるケースもある」(1万人未満)、「相続人がいても相続放棄する人も多く、死亡者に課税するしかない場合が近年増えてきている」(2万〜5万人)といった記述があった。
相続する土地が自分が住む土地から離れている場合、僕の母型の祖父母の家のように、手入れのために兄弟姉妹4人で定期的にメンテナンスに帰るなど、維持するのにも労力がかかる。それでも自分たちの生まれ育った生家ということで力を合わせて維持しているが。
「土地神話」の浸透と強い権利意識
戦後の高度成長を背景に、都市部を中心に地価の上昇が続くなか、「土地は絶対値下がりしない資産」という「土地神話」が広く浸透していた。土地は、預貯金や株・債券などと比較して「有利な資産」だと考えられ、強い権利意識が根本的に変わることはなかった。こうした日本の強い所有権が、地価高騰や乱開発をはじめさまざまな土地問題の解決を難しくしていることは、多くの法学者が指摘してきた。法政大学名誉教授の本間義人は、「わが国の戦後土地政策が全く機能しないできたのは、できるだけこの土地所有権に触れないで済ませる施策のみ重点的に行ってきたからであった」(『土地問題総点検〔増補版〕』)と指摘する。
現在、人口減少社会を迎え、利用見込みのない所有者不明となった土地が全国にあり、その面積は九州よりも広いとされている。地方の土地価格は減少傾向にあり、都内の一部地域だけが地価を上昇させているという状況。先進諸外国から遅れをとっている地籍調査。今後この問題は事あるごとに取り上げられるだろう。
テレビで所有者不明の土地が九州の面積を超えると聞いたときはまさか!?と思ったが、読み進めていくとそうなるに至ったさまざまな原因が見えてきて興味深かった。
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