「無駄と非効率のかたまりのようなカメラ店が、大手家電量販店を凌駕する」「産みたて卵に開店前から行列」「ジャンボジェットでも大丈夫!絶対にゆるまないネジ」―三年にわたる日本各地の取材のなかから独創的な商品、サービス、経営手法で業績を伸ばした十一の会社を厳選して紹介。経営戦略の事例集としてだけでなく、自分もこのように働きたいという「幸せな働き方」の教科書として、万人に読んでもらいたい一冊。強い思いや信念に基づいた仕事への取組みは、規模に左右されない経営の真実を生む。
目利きが選んだカメラを売る
お客さんは、広告で目にするカメラしか知らない。だから最初は、なんでそんなカメラを押しつけようとするんだって思うよね。でも、調べていくと、実はすごくいいカメラだということが分かってくる。実際にお客さんが、本当にありがとうね、あんたのすすめてくれたカメラ、本当によかったわあって言ってくるからね。今は、サトーカメラのほうが全然ものがよくて安いじゃんと、みんな思ってくれている。━━目利きの眼があると、埋もれている優れた商品を安く仕入れられるというわけですね。
佐藤 他の店もみんな真似して、うちで売っているのと同じ商品を仕入れて売ろうとするんだよ。でも、売れない。大手家電量販店では、誰もが知っている人気商品を置かないと売れない。だって、説明できる店員がいないんだから。結局、売れ残るよね。売れ残ったのはメーカーに返品されて、また、うちが安く買い取る。
商品知識を売りにして大型家電量販店に挑むこの店。大型家電量販店だとどうしても各メーカーの商品を取り扱わなくてはならず、商品知識は偏りがち。最新のCMが流れるような商品は高機能だがそこまで必要ないというライトユーザーの心を奪う商品で勝負すればまだまだ勝負に勝てるといういい例だ。
巨大な鮮魚店
店内に入ると、売り場の広さと客の熱気にまた目を見張る。売り場の面積は三〇〇坪近くはあるだろうか。一店舗の魚屋としては破格の広さである。ひときわ賑わっているのが、対面販売コーナーだ。北海道から九州まで日本全国の港で揚がった魚介類が「むき出し」の状態で売られている。海に戻したらそのまま泳ぎ出しそうな魚が、敷き詰められた氷の上にずらりと並んでいる様は壮観だ。そのコーナーで、赤いユニホームを着た店員の威勢のいい声が響き渡る。「いらっしゃい、いらっしゃい。今日はメバルがいいよ。メバルがっ」。多くの客は、魚を買うときに「サバを三枚におろしてくれます?」「このタイを煮物にしたいんですけど、切り分けてもらえないかしら」などと店員に注文し、調理・加工をしてもらう。コーナーの奥には調理台があって、店員が注文通りに魚をさばいていく。さばいた魚はビニール袋に入れられて、「はい、お待たせしました」と客に手渡される。若い夫婦が珍しい魚を目の前にして、店員に訊ねる。「この『じょんじょろ』っていう魚はどうやって食べるんですか」。店員が「頭を取って、煮つけにするとおいしいですよ。柳川にしてもいいですね」と答える。「へえ、どんな味なんですか」と会話が続く。いつの頃からか、魚屋は、切り分けてパックした魚を売る場所になってしまった。しかし、かつての魚屋は「今日は何がおいしいの?」「この魚はどうやって食べるの?」「鍋にしたいんだけどいい魚ある?」などと、店員と会話しながら買い物をする場所だった。この店は、そういった在りし日の魚屋のスタイルである。
最近ではスーパーの鮮魚コーナーでも三枚おろしとかの注文を受けて加工するサービスをやっているところも多いが、在りし日の魚屋のスタイルが受けている。新鮮な魚が帰るとあって連日盛況なこの店のスタイルは今では逆輸入的な形でスーパーの鮮魚コーナーに戻ってきている。
贈答用に売れまくるトイレットペーパー
羽二重を発売してから二年後の二〇〇七年には、羽二重をさらに柔らかくしたトイレットペーパー「 羽 美 翔」を発売した。皇室にも献上しているという最高級品である。望月社長にとって、柔らかさの追求にゴールはない。「もっと柔らかくなるんじゃないかと思って、今もずっと改良を続けています。パルプの組み合わせの研究も継続的に行っています」という。こうした休むことのない改良・開発のモチベーションとなっているのは、購入者から送られてくるハガキである。望月製紙の商品には、意見や感想を書いてもらうハガキが同梱されており、毎月、全国の購入者から一〇〇通近くのハガキが返送されてくる。ハガキの内容は例えばこんな具合だ。 〈育児疲れをこの紙で癒やしています〉 〈これを使うと我が家がみんな笑顔になります。家庭円満にもつながっているみたいです〉 〈友人に贈ったところ、使うたびに私を思い出してくれるとのことです〉 森澤社長は、「こういうハガキをもらっていると、いい加減な商品をつくってはいけないし、いい商品、喜ばれる商品をつくらなければならない、と思いますよね」と語る。
使うたびに贈ってくれた人の顔を思い出すこのトイレットパーパー。柔らかさを追求した使い心地はリピーターを生んでいて業界の隙間をうまいことついた商品である。
仕事に対する姿勢を変えれば、新たなサービスや商品はいくらでも生まれる。一見無駄とも思える非効率の中から新たなアイデアが生まれるわけだ。生産性を声高に叫ぶだけではなく、こうした非効率の中にこそ新しい働き方があるのではないだろうか?
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