パラノイア(病的なまでの心配性)だけが生き残る――。これはインテルを世界的な企業に育て、現在もシリコンバレーの経営者たちに尊敬されているアンドリュー・グローブ氏のモットーだ。成功すればするほど、そのうま味を味わおうとする人びとが群がり、食い散らかし、そして最後には何も残らない。そして、テクノロジーが発展し、顧客の好みが変わり、規制が変わることなどから、「戦略転換点」が襲いかかる。これを見逃したら、企業にとっても、個人のキャリアにとっても命とりだ。チップのバグで4億7500万ドルの巨額損失を計上したり、日本メーカーの攻勢で主力メモリー事業からの撤退をしたり、修羅場を乗り越えた「パラノイア」(超心配性)である著者が、「戦略転換点」を見極め、予測不可能な世界でしぶとく生き残るための方法を教える。
遅かれ早かれ、あなたのビジネス周辺に根本的な変化が訪れる
ATM(現金自動預入・支払機)の登場が銀行業務を変えたという事実がある。手頃な価格のコンピューターがネットワーク化されて医師の診断や診察に導入されれば、医療のあり方も変わるかもしれない。あらゆるジャンルのエンタテインメントがデジタルの世界でつくられ、保存され、配信され、表示されるということになれば、メディア産業全体が変わるだろう。要するに戦略転換点とは、ハイテク産業であろうがなかろうが、いかなる産業にも起こりうる事業基盤の変化なのだ。
ATMの登場は僕たちの生活を便利なものにしたが、現在では、Suicaを代表する電子マネーの普及により使う回数が減ったような気がする。僕の場合は買い物は基本、ネットでするのでクレジットカードがあれば事足りる。スタバでもスターバックスカードにクレジットカードでオンライン入金して支払いに使うので、これまた現金の出番はない。こうして、現金を使わなくても良い生活スタイルが出来上がってしまっているので、ATMは収入や支出の通帳記入ぐらいにしか使わなくなってしまった。支払いの際、小銭を財布から出さなくても良いという買い物のスタイルはストレスを一気に低減させた。
「10X」の力
事業基盤の要素に変化が起き、それが桁違いの規模になっていくと、予測はことごとく裏切られることになる。風がやがて台風となり、波がやがて高波となるように、ひとつの競争要因はやがて熾烈な競争を生む力へと変わる。私は、6つの力のいずれかひとつが大きく変化することを「10X」の変化と呼んでいる。要するに、力の大きさがそれまでの10倍になった状態をいう。
この「10X」に直面すると経営者はコントロールを失うこともしばしば。やがて業界は新しい秩序を取り戻すが、その時点で強くなった企業とそうでない企業で明暗が分かれる。こうした移行期にあっても、警鐘を鳴らす人は誰もいない。ゆっくりと着実に進行し、力が大きくなるにつれ事業の性質も変化する。この時期をどう乗り切るかで将来は決まる。この現象こそが転換点と呼ぶものだ。
勝者と敗者
従来の縦割り型コンピューター業界の上位に位置付けられていた企業で、新しい横割り型コンピューター業界の上位10社に入った企業はほとんどない。これは、ひとつの産業で成功を収めた企業が、まったく異なる産業構造に適応していくことは極めて難しいという見解を裏づけている。
イノベーションが起こるとその業界の勢力図が一気に変わることが多々ある。Windowsの発売やiPhoneをはじめとするApple製品の発売も市場の勢力図を大きく変えた。より良いプロダクトは情報の往来が激しい現在では、驚くほどのスピードで普及する。生活が劇的に変わるようなものだとなおさらだ。
感覚的な問題
あなたが経営陣のひとりであるなら、おそらく今までの人生の大半を、仕事や業界や会社のために捧げてきたからこそ、今日の地位を築けたのだろう。そうした人々の多くは自己のアイデンティティを仕事と切り離して考えることができない。そのため、仕事で深刻な問題に直面すると、どうしても個人的で感情的なリアクションが先に立ち、ビジネススクールやマネジメント研修で学んだはずのデータを理論的かつ客観的に分析するという姿勢は二の次になってしまう。
中間管理職などでも同じ。多くの場合、自分の仕事も危うくなる。これからのキャリアがどうなるかは、あなたの会社がいかに戦略転換点を乗り切るかにかかっている。この戦略転換点にある企業は、初期の頃失うものがたくさんある。会社の地位やアイデンティティ、未来像、職の保証。そして何より厳しいのは、勝者としての地位を失うことだろう。
自分自身のキャリア転換点の存在は、志を共にする同僚と活発な議論を行うことで分析可能。自分の仕事環境などに疑問を持つ習慣を身につける必要がある。言い換えれば、自分の仕事環境について、自分で自分と討論を行う習慣を身につけるのだ。パラノイア(病的なまでの心配性)だけが生き残る。パラノイアなら誰でも成功できるというわけではないが、勇気が出る言葉だ。
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