アメリカ在住ノンフィクションライターである著者は、恩師に頼み込まれ、高校の教壇に立つことになった。担当科目は「JAPANESE CULTURE(日本文化)」。前任者は、生徒たちのあまりのレベルの低さに愕然とし、1カ月も経たないうちに逃げ出していた。そこは、市内で最も学力の低い子供たちが集まる学校だった。赴任第1日目、著者が目にした光景は、予想を遙かに超えていた。貧困、崩壊家庭と、絶望的環境のなかで希望を見出せない子供たちに、著者は全力で向かい合っていくが…。子を持つ全ての親、教育関係者必読のノンフィクション。
体当たり
「この子たちの集中力は、もって 50 分だ。2コマ共、授業をするのは不可能なのだ。ならば1限目に可能な限りの学習をして、2限目は全部公園に連れて行こう。相撲でもサッカーでもやらせて、若いエネルギーを発散させてやろう。ちょこっと、ボクシングを教えても面白いかもしれない……」同校の授業開始時刻は午前8時である。休憩を挟んで 10 時までに2コマこなし、その後、昼までにさらに2コマ別の授業がある。多くの生徒は昼休みまでに疲れ切っているようだった。『日本文化』が行われる火曜日と木曜日は、昼休みにランチを食べた後、私と顔を合わせる。校舎の外で遊びたい彼らの気持ちも分からなくはなかった。私は学期終了まで、第2限目は全て公園でのレクリエーションとすることにした。 「センセイ、浜崎あゆみって可愛いよね。〝可愛い〟って、どう書くの?」兜を折りながら、突然ティオが訊ねた。 「へぇ、ああいうのが趣味なのか」軽口を叩きながら「かわいい」の平仮名を教えると、ティオは大きな字で黒板に「かわいい」と書いた。すると、寡黙そうな白人の女子生徒も黒板の前にやって来て、私に質問した。「あの、キスってどう書くんですか?」着物が好きで、日本のファッションに興味があると自己紹介したジョディ・ワードである。この生徒は入学したばかりの1年生で、教室の隅にちょこんと座って課題をこなす子だった。彼女はレインシャドウ・コミュニティー・チャーター・ハイスクールに通っているのが不思議なくらい、普通の学生に見えた。事実、一度教えただけで、自分の名をカタカナで記せるようになっていた。
家庭の事情や学力が普通の高校では通用しないぐらい遅れた子たちが集まるこのハイスクールにアメリカの抱える問題が見える。日本でも不登校やなんかで普通の学校に通えなくなった子たちが通う学校があるのでそれと似たものか。そこで奮闘する日本人講師の彼は教員免許を持っているわけではなかったが、英語力と日本文化を伝えながら学習するという形をとりながら教壇に立った。最初は何かと理由をつけてエスケープする生徒が目立ったがだんだんと絆が深まっていく様子が描かれていてほっこりする。
どうしてこの学校を選んだのかを聞くと中学時代の成績が悪すぎて公立の高校に入れなかった子や親父が刑務所に入っているなど仰天の回答をする子も。こういった子たちに教養と共に高校卒業の資格を与えるのがこの学校を創設者の意図だ。
「真面目にやれないなら、辞めていいと言った筈だぜ」
「真面目にやれないなら、辞めていいと言った筈だぜ」注意すると、「やってるじゃないか!」とばかりに紙を投げて寄越した。この時私は、一発生徒を殴る事ができたらどんなに楽かと、心底思った。勿論賛否両論あるだろうが、規律、常識を持ち合わせない輩には、恐怖心を覚えさせるのが手っ取り早いのではないか。手を出せないことが、もどかしかった。親が子供を教育する時、手が出るのは自然ではないだろうか。私自身、 玩具 を散らかして何度注意しても片付けようとしない2歳の息子の頬を叩いたことがある。それは暴力には違いないが、愛情故の躾である。常識に欠けた子供たちを社会で通じるように叩き直す場合、口で言い聞かせるなどと悠長なことを論じている暇はない。こういう生徒が作り出す悪い空気は、教室中を覆う。ヘスースの後に指名した〝横綱〟、ブランドン・ジョージは、へスースに冷たい視線を投げ掛けながら語った。「私は映画を愛しています」 「私はケーキが好きです」 「私はSTUPID(馬鹿な、愚鈍なの意)な人間が嫌いです」先に記したように、ブランドンは相撲大会でクラス一の怪力を見せた。物静かな少年だが、人に迷惑をかけるような行為は絶対にせず、黙々と言われた事をこなしていた。他の学生が遊び出す様を尻目に、ビデオも真剣に見ていた子である。その彼に 睨まれたへスースは何もできなかった。
無名のライターだった著者が奮闘する姿は、ちょっと面白くもある。学級崩壊に近い状態から先生の言うことを聞くようになるまでの軌跡は何者にも代えがたい教師と生徒の絆だ。
アメリカの下層社会の教育実態がつまびらかにする。日本でもこうしたレールから外れかけた子どもたちを教育する機関はたくさんあるが、生徒の生活環境はアメリカほど悪くないのだと思った。しかし、日本でも格差が問題になってくるにつれアメリカ下層社会の構造と同じような状態に近づきつつあるような気もする。日本の教育現場の未来を映す鏡としてのアメリカ。教育現場に立つ人には読んでほしい書籍です。
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