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〈問い〉から始めるアート思考|吉井 仁実|今、アートに触れる意味とは?

未来についての問いを私たちに投げかけブレイクスルーを与えることを目標とするのがアーティストに共通する下地。アートに触れる意味を考えながら目に見えないものを見る力を養うための方法論を稀代のアートディレクターとともに考える。

アートは人々の感覚と意識の壁を取り除く

アートとは「問い」である。そうであれば、なぜアーティストは「問い」を鑑賞者や社会に投げかけるのでしょうか。何か必然性のようなものがあるのでしょうか。

アーティストは誰かに頼まれたわけでもないのに自ら「問い」を作って、基本的に言葉には頼らず、それを時間と手間と労力を使って形や色、作品の強度などで伝えようとします。どうして、わざわざそんなことをするのでしょうか。芸術学の専門家や美術評論家に聞けば、さまざまな考えを教えてくれると思います。ただ、私はわりとシンプルにこう考えています。

アーティストが「問い」を発するのは、人間の感覚と意識を拡張したいからだと。

アーティストは、不特定の鑑賞者に今まで感じたことがないものを感じさせたいと思っています。言葉に頼らないのは、今まで覚えたことのない感覚を味わわせたいからです。アーティストの中には、その新たな感覚を通して、人々に新たな意識を生み出させようとする人もいます。人が持つ感覚を通して、今まで感じたことのない感覚を覚えさせることで、それまで頭の中にあった意識の壁を人々に越えさせようとするのです。

アーティストは、お金のためではなく、あるいは誰かの依頼に応えるためでもなく、人々の意識の拡張を図ろうとします。それはなぜか。この答えに絶対的に答えられる人はいないと思いますが、アートはそうやって人類の歴史とともに営まれてきたのだろうし、アートが人々の意識を拡張する度に人類はより自由になれたのではないかと私は思っています。

芸術とは人の心に訴えかける何かを生み出すもの。アーティストはそのための問いを自らに課し作品で言葉を用いずに表現します。アートが人々の意識をさまざまな形に変えて拡張するたびに人類の喜びを高いレベルで発するのです。

アートの本質は「表現」ではなく「問い」にある

本書のテーマである「アート思考」について、この最後の章で私なりの考えを記してみたいと思います。

優れたアーティストは優れた「問い」を社会に発します。それゆえに社会から求められるアート作品になるのだと私は考えます。私がいくつかのプロジェクトを共にやらせていただいた杉本博司さんの作品に『劇場』シリーズがあります。さまざまな映画館のスクリーンを上映中に撮影したものなのですが、単に映画館の中を撮影した写真ではなく、1本の映画が流れているスクリーンをカメラで撮るのです。映画が始まったときにシャッターを押し、終わったところでシャッターを閉じる。つまり、映画が投影されている間、ずっとシャッターを開けたままにして1枚の写真を撮影するわけです。

このように撮影すると、出来上がった写真のスクリーンは必ず真っ白になります。どんな映画でも、どの映画館で撮影したスクリーンでも、例外なく白くなります。まるで暗い劇場の中で白いスクリーンが浮かび上がるような写真なのですが、そのスクリーンにはいろいろな1本分の映画が流れています。

そう思ってこの写真を見ると、とても不思議な感じがしてきます。静止した写真であるはずなのに、動いているように感じられて、私だけかもしれませんが、自分の頭の中でいろいろな思いやイメージが現れては消えていきます。生まれて初めて観た映画、最初に家族で観た映画、好きな人と観た映画、思い出に残っている映画、そんな記憶が去来するのです。杉本さんの作品の中の白いスクリーンは、鑑賞者に合わせていろいろなものを映し出す不思議なスクリーンなのです。

アートは表現ではなく問いという言葉にあるように表現されたものに設問を見出すことでその問いも鮮明に。人々に語りかけてくるそれは多くの人に疑問や課題などを与えそれを多くの人に広めます。自身の疑問や問いを投影するスクリーンを与えるこの作品(白いスクリーン)もそんな問いの一部です。

見えないものを見る。稀代のアートディレクターが放つ、アイデア、イノベーションの発想法。

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