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トップリーダーが実践する「上手なブレ方」とは?

信念を曲げる、考えを翻す、立場を変える、そして、ブレる。いずれも否定的に用いられることが多い言葉だ。一般的にはあまり評価の高くないこれらの性質。本書ではそう言った価値観とは真逆の解釈をする。相手を説得するのではなく、相手が正しい場合その説得を受け入れる柔軟さこそが大事だという。そんなリーダーたち例をあげながら見ていこう。

リーダーシップの変化

ジェフ・ベゾスは一見、伝統的なリーダーの型に完全に一致するように思える。彼はアマゾン・ドット・コムのアイデアを思いつき、想像しうるほとんどすべての物を販売し、年商数百万ドルにも達するオンライン上の店舗としてそれを具現化した。その発展は多くの業界を巻き込み、混乱に陥れた。(中略)彼は一度決めたことはやり抜くといったところはまるでない。むしろ固い信念を決して持たないようにしている。アマゾンを成長させていくなかで、彼はなんども考えを改め、多くの計画を放棄している。

イーベイに対抗するために作られたアマゾン・オークションなどは失敗とわかるやいなや撤退という決断をした。目先を変えて、マーケットプレイスとして知られる第三者販売プログラムを導入し、成功を収めることに。これはいい商売になると確信したものでも、思うように軌道に乗らないことはよくあること。そこで頑として譲らず、押し通すのではなく、負けを認めて撤退する判断力もリーダーにとって必要な資質だというのがわかるエピソードだ。ほぼ、なんでも手に入るアマゾンだが、日産のGT-Rをオンラインで販売したときは本当に驚いた、あんな高額商品をネットで買うなんて考えられないと思ったが、ちゃんと売れたようだ。

変わり身の達人リンカーン

エイブラハム・リンカーンは、一刻も早く奴隷を解放するために進んで努力したと信じられているが、それは必ずしも正しいとはいえない。また黒人奴隷がアメリカ社会に溶けこんで共生することを望んでいたわけでもなかった。当初リンカーンが望んでいた政策は、のちに彼が行ったものとかなり異なっている。彼は考えを変えたのだ。実のところ、ジョージ・フレドリクソンの『Big Enough to Be Inconsistent/巨大な矛盾の塊』で述べられているように、リンカーンの生涯は方向転換の連続であった。

大きな転換といえば、奴隷解放に対する立場の転換だろう。「奴隷は段階的に解放されるべき」これが、生涯を通じて、奴隷を悪と位置づけていたリンカーンの真実。大統領就任時も積極的に奴隷を廃止することは賢明ではないとしていた。リンカーンの段階的奴隷制廃止は失敗に終わり、南北戦争は北部不利な戦況に。戦力のテコ入れが必要だったので、その担い手として奴隷を解放したのだ。当初の思いと違う形ではあったがこうして奴隷制は廃止となっていった。偶然重なった様々な出来事を柔軟な頭で考えることで、偉業となった好例である。

逆を考える

レオナルド・ダ・ヴィンチもまた、逆を考えることを取り入れていた。『モナ・リザ』を描き、時代を数世紀先取りして空飛ぶ機会を考案し、プレートテクトニクス(プレート理論)の萌芽となる理論を述べるなど数々の業績を残した彼は、問題を解くためには複数の視点から見る必要があると考えていた。自分の視点には本質的に偏りがあると知っていたのだ。「人を最も騙すのは、自らの意見である」と彼は書いている。

自分の作品を文字どうり別の視点で見るためにダ・ヴィンチは鏡を持って描いている作品を覗いたという。自分の作品よりも、他人の作品の方が誤りを見つけられるという経験からこの手法をとったのだ。クラッシック音楽に詳しくない僕でもピアノのミスタッチがあると気づくことができるのと似たようなものか。

三振ルールという基準

ベイズの考え方を現実に役立てる方法を、私は三振ルールと名づけた。これは、三つストライクをとられたら考えを変え、自信を持っている判断でも捨てようということだ。考えを変えるほど圧倒的ではない反証に出合ったとき、それをワンストライクとカウントする。これによって必要以上に過剰反応することも、また考えを捨ててしまうこともなく、そこにある情報から学ぶことができる。さらに別な反証に出合ったら、ツーストライクだ。この時点で自分の信念に対して本気で疑いを持つべきだが、それでも考えは変えなくてもいい。だが三度目の反証に出合ったときには、考えを変えるべきだということを理解しなければならない。

日本語でも〝三度目の正直〟という言葉があるように三回というのには昔から目安の一つとしてあったのだろう。

このほかにも。柔軟でありすぎることの代償として、より安い買い物をしようと何店舗もハシゴしているうちに、時間を無駄に費やしてしまい、せっかく安く手に入れたのに、時給換算すると割の合わないなんて例も。結果、何も考えずに最初に訪れた店で買い物を済ましてしまうことが、より時間を効率的に使うこととなり最良の場合もある。信念を持つことも大事だが、ときには自分の考えを疑ってみることも必要だと感じられる書籍でした。

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