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『脳のなかの匂い地図』森憲作

      2019/01/27

食欲をそそるいい匂い、果実の爽やかな香り。食べ物は匂いがあるから「おいしさ」も引き立つ。いい香りは心地良さや精神の安定につながる。いやなにおいがすれば逃げ出したくなる。しかし、香りを感じる脳のメカニズムは、長らく分からなかった。なにしろ、数十万種類もの香り分子を脳はいったいどのようにして感じるというのか、大きな壁が科学者の前に立ちふさがっていた。本書は、この謎を解き明かしてゆく近年の驚きと新発見に満ちたドラマを再現する。

魚の嗅覚

魚の嗅球の「におい地図」にもいくつかの領域があります。理化学研究所の吉原良浩博士らのグループの最近の研究により、魚の嗅球の「におい地図」にも領域別機能分化があることが明らかになりつつあります。魚にとって水に溶けているアミノ酸のにおいは食べ物のにおいとして重要です。魚の嗅球の「におい地図」内には、魚が各種のアミノ酸のにおいを嗅ぐと、応答する糸球が集まっている領域がありますが、この領域からの信号は、魚がアミノ酸のある場所へ泳いでいく行動と結びついているようです。また、魚は群れをなして泳いでいますが、たとえばかわせみのような鳥が川のなかに飛び込み魚の群れのなかの一匹を嘴にくわえると、傷ついた魚の皮膚から何らかのにおいが周りに出ます。すると周りで泳いでいた魚はこのにおいを感知して、四方八方に逃げる行動をとります。このような警報の役割をするにおいに応答する糸球群も、魚の嗅球の「におい地図」のなかの特定の領域内にあるようです。

水中でも臭いという概念があるとは。水に溶けているアミノ酸によって嗅ぎ分けているのですね。人間がまく餌と本物の獲物との区別はつかない程度の嗅覚という事でしょうか。でもそれによって釣りなどを楽しむ事ができるのだと思います。疑似餌や撒き餌などに騙されない鋭い嗅覚を持った賢い魚も中にはいるのでそういった魚は他の魚よりも餌に対しての警戒心が強く嗅覚も優れているんでしょう。

食べ物は嗅覚と味覚と体性感覚で味わう

口のなかの食べ物の検査には、嗅覚神経系とともに、味覚神経系や、体性感覚神経系などの異なった感覚系が動員されます。咀嚼しているときに、味覚神経系は食べ物の味を、体性感覚系は食べ物の舌触りや温度や喉ごしなどの感覚を脳へと伝えます。嗅覚と味覚と体性感覚の信号は、それぞれ別々の受容細胞で受け取られ、別々の神経経路を通って大脳皮質へと伝えられます。そして、脳は、嗅覚・味覚・体性感覚などの情報を集めて、「口のなかにある食べ物がおいしくって、食道へと飲み込んでも良いか」、それとも「何か違和感がある感覚情報を得たので飲み込まないでおくか」の判断をするわけです。いいかえれば、脳の高次の中枢には、嗅覚の情報と、味覚の情報と、体性感覚の情報をあつめて、口のなかの食べ物のおいしさやまずさの評価をおこない、食べるか食べないかの判断をおこなう部位があると予想されます。いったい大脳皮質のどのような部位が食べ物の評価や摂食判断に関与しているのでしょうか。

嗅覚や味覚はよく知られているが体性感覚(触覚など)という言葉は聞き慣れない。噛んだ時のシャキシャキ感や口の中でふんわりとける感覚だったりそういったもの。これらの感覚で総合的に大脳皮質が評価して摂食判断をしているのだという。食べ物の美味しさを表現する時この三つを織り交ぜて食レポすれば的を射た食レポ、感想になるだろう。

また面白いのは、ある食べ物で満腹になってもニューロンにおけるその食べ物の感覚入力に対する応答は減少しますが、別の食べ物の感覚入力に対する反応は減少しません。これにより、ハンバーグ定食で満腹になってもデザートのケーキは別腹という現象が起こるのだそうです。

食べ物の予測とドーパミン回路

ネズミがチョコレートのにおいを覚えると、チョコレートがまだおがくずの下に隠されていて見えなくても、そのにおいを嗅ぐだけでドーパミン神経細胞の活動が増加します。チョコレートという報酬が予測できた時点で活動するのです。においを嗅いだときに報酬を予測して活動が増加した場合は、チョコレートを口に入れたときには、もうドーパミン神経細胞の活動は増加しません。さらに、もしにおいを嗅いだときにチョコレートを予測してドーパミン神経細胞の活動が増加しても、チョコレートがない場合には、ドーパミン神経細胞の活動は通常よりも減少してしまいます。チョコレートという報酬の予測が外れると、神経活動が抑制されるのです。このように、嗅球─嗅結節─腹側淡蒼球─中脳ドーパミン神経細胞という神経経路は、においによる食べ物(報酬)の予測に密接に関与していると推測されます。

匂いを嗅ぐとチョコレートという報酬を予測する。ネズミでの実験だが人間にも当てはまる。匂いによる報酬の予測とドーパミン回路は切っても切れない関係なのだ。

脳の中で香りを感じるメカニズムが詳しく解説された書籍。どのような神経回路で匂いを検知し我々は食欲その他の感覚を刺激するのかがわかります。匂いは公共マナー上も重要な要素。最近では匂いに着目した商品(消臭・芳香)が巷に多く出回っているので試してみると世界が広がりそうですね。

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